『世界がわかる地理学入門―気候・地形・動植物と人間生活 (ちくま新書)』 水野 一晴著 [科学一般]
世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活 (ちくま新書)
- 作者: 水野 一晴
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2018/03/06
- メディア: 新書
「私たちの生活は自然と密接に結びついているのだ」
本書の内容紹介に〈世界には、さまざまな場所があり、多様な人びとが暮らしている。そして、そんな各地の人間の暮らしは、気候、地形、植生など色々なものの影響を受けている。ふだんは気づかなくとも、私たちの生活は自然と密接に結びついているのだ〉とあるが、実際、その「ふだん気づかな」い、自然との結びつきを悟ることができるよう助けてくれる本だ。
著者は、気候区分の概説の後、熱帯気候、乾燥・半乾燥気候、寒帯・冷帯気候、温帯気候の気候区分ごとに、その自然、気候メカニズム、農業、住民生活等について解説していく。しかし、その解説は陳腐ではない。陳腐でないだけでなく、たいへん興味深い。2018年最新の情報も示されている。地理学的観点から“現在の”世界を知ることのできるたいへん有用でオモシロイ本であると思う。(専門用語も本文中で説明を加えつつ記述がなされていくので、単なる読み物としても十分たのしめる)。
他を知ることで自らをよりよく知ることができるものだが、日本という国に生まれて良かったと感じさせられもした。すこし引用してみる。〈そのため、ヨーロッパの植生は非常に単調となり、高等植物は全部あわせても約2000種ほどしかない。日本は小さな島国でありながら約5000種が存在するので、いかにヨーロッパの種類が少ないかがわかるであろう。イギリスが約1500種、アイルランドが約1000種なのだが、日本では東京近郊の高尾山(599m)だけで約1500種も存在するのだ(水野2015、2016d)〉という記述もある。
そして、この後、“ドイツ人”シーボルトが、ヨーロッパでは既に絶滅して化石でしか見いだせないイチョウが日本に生えていることを知って・・・という逸話が紹介されている。
2018年5月18日にレビュー
気候変動で読む地球史 限界地帯の自然と植生から (NHKブックス)
- 作者: 水野 一晴
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2016/08/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
以下は、「第2章 乾燥・半乾燥帯」、「狩猟採集民サン(ブッシュマン)の伝統的な生活とその変化(ボツワナ)」の項からの抜粋。(田中・・・・)とあるのは、ブッシュマン研究のパイオニアとして1960年代から調査をおこなってきた田中二郎さんのこと。
************
サンの人たちは必要最小限のもの以外は所有しないのだが、この無欲さは彼らの社会を根本から支える平等主義の原理と密接に関わっているという。日々集められる植物性食物や小動物は家族単位で消費されるのが一般的だが、まれに得られる大量の肉は、徹底して平等に分配される(田中2001)。サンの社会では、獲物の所有権は射止めた人ではなく、狩猟具の提供者に帰属するというルールをつくっている。弓矢の狩りには上手下手の差が歴然と現れるが、矢を作るだけなら誰にでもできることなので、特定の優秀なハンターに富が集中しないよう、また、できるだけ多くの人に所有の機会が与えられるように配慮がなされている(写真2-39)(田中2001)。p160
中略
このような動植物保護を名目としたサンの人々の定住化政策で、多くの人は貨幣経済生活になじめず、失業、伝統文化の消失などが社会問題化するようになった。定住化によって自由に狩猟採集生活が送れなくなったことから生ずるストレスや貨幣経済の浸透から、アルコール依存者の増加や酒がからんだ暴力事件、自殺が多発することになる。これまでサンの社会では盗みと暴力は最もよくないものとされていたのだが。(p164)
ブッシュマン、永遠(とわ)に。―変容を迫られるアフリカの狩猟採集民
- 作者: 田中 二郎
- 出版社/メーカー: 昭和堂
- 発売日: 2008/10/01
- メディア: 単行本