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『ことばはフラフラ変わる』 黒田 龍之助著 白水社 [言語学(外国語)]


ことばはフラフラ変わる

ことばはフラフラ変わる

  • 作者: 黒田 龍之助
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2018/01/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


著者の「比較言語学講義ノート」から生まれた本

2011年発行の『ことばは変わる』に加筆訂正し、「コーヒーブレイク」なる短いエッセイを入れ、組み替え、改題した新版。文章は、タテ書きとなって読みやすい。その内容はというと・・・

病気の先生のピンチヒッターとして、著者は「比較言語学」の講義を依頼される。しかし、「比較言語学」はタイヘンだ。多くの言語の知識が必要である。ギリシャ、ラテンに加えてサンスクリット語の知識も要求される。さらにゴート語に古代スラブ語も・・・。「そんな人、日本に何人いるのか。わたしはほとんどダメだ」と言いながら、著者は引き受ける。興味があるからだ。「そうか、単なる比較言語学というより、『複数言語学』というつもりで、複数の言語を対象とするときの考え方を紹介する授業にしたらどうだろうか。そうすれば、ヨーロッパ言語至上主義に陥る危険も、多少は回避できるかもしれない」と考えた著者は、伝統的な比較言語学の全体を一通り調べ、加えて歴史言語学、つまり言語を通時的に観点から概観し、部分的にその方法論も紹介し、表面的なことを全体的に語り、アジアの言語が専門の人にも有益な授業を目指すことにする。そして、共通のテーマは「言語の変化」とし、言語の変化はどうして、どのように変化するのか、それを比較言語学、歴史言語学だけでなく、さまざまな角度からアプローチする・・・。そのようにして、取り扱った講義とその中で学生に与えた課題とその応答が本書に示されている。

ことばがフラフラ変わることが漸次しめされていく中、著者もたいへんな重荷を背負っただけに、あちらこちらフラフラと話しを進める。「なんだか話しがずれてきた。要するに、言語は人間とは違うということをいいたいわけである。当たり前なのだが。」などとある。だが、そのズレが面白かったりする。たとえば、「わたしは人文科学が過去を見つめる学問だと考えている。現在を見つめる社会科学や、未来を見つめる自然科学に比べると、人文科学はなんとなく地味だなあと感じることがある。だが過去をきちんと整理しないで、やみくもに未来へ進むことがはたしていいことなのか。・・・」という論議もあれば、「振り返ってみれば、大学院で勉強したことのうち、主要なものの一つに研究史があった。どういう研究者が何を研究し、どのような業績を残したか。そういう人がどのような本や論文を書いて、そのうちどれが現在でも価値を失っておらず、さらには目を通すべきなのか。そういうことが、とても重要だった。人文系の大学院とは、こういうことを学ぶ場である。ところが外国語の場合、大学院で運用能力を伸ばそうと考えて進学する者がときどきいる。愚かである。」などという論議もある。本筋も面白いが、著者の人柄からでてくるユーモアと本筋からさまよい出たフラフラした論議が本書の魅力でもある。

ちなみに著者の講義はたいへん人気があったようだ。専門科目なのに受講生がふつうの10倍も集まり、「もしかして専門的でない、レベルの低い講義なのではないかという声が上がったようで、そのまま廃止となった。」という。おかげで、ほどよく専門的でポピュラーな講義を読むことができるのは結構なことである。実際のところ著者のいうように「言語に興味があるのは、専門家ばかりではないのだから」。


著者自身「本書を読了したからといって、比較言語学が分かったつもりになるのは非常に危険であることを、あらかじめ申し上げておきたい」といい、「さらに詳しく知りたい方」にお薦めする参考文献として(第1章末尾で)以下の本を紹介している。「このような良書の多くが絶版であるのに対して、入手可能な本にかぎってロクなものがなかったりするのが残念だ」と付言されている。「これまでの研究を完全に無視して荒唐無稽な論理を力ずくで押し付ける」「トンデモ本」が書店にいくらでも並んでいるそうなので、要注意ということでもある。(その説明は、本書2章でなされている)。

2018年3月27日にレビュー

歴史言語学序説 (1967年)


言語学の誕生―比較言語学小史 (岩波新書)


比較言語学入門 (岩波文庫)


比較言語学を学ぶ人のために


入門ことばの科学


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