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『哲学がわかる 因果性』 岩波書店 [哲学]


哲学がわかる 因果性 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

哲学がわかる 因果性 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

  • 作者: スティーヴン・マンフォード
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「本書は、因果性の主要な諸理論、さらにそれをとりまく議論や論争へと読者を案内するものである」

「因果性」とは何か?ちゃんと哲学用語として存在している。Causation と表紙に示されている。また、ウィキペディアには Causality で立項されている。しかし、評者は知らなかった。本書・表紙の題字を見て思いに浮かんだのは、「原因と結果の関係のこと?」、「仏教でいう因果応報?」、そして、「風が吹けば桶屋がもうかる」に思いは飛んだ。

原因があって結果がある。ある結果が生じたからには、その原因となる事象がある。というわけで、そこから原因探しをはじめる。生じた結果と時間的に、また距離的に近いところにある何かが原因として特定される。犯罪捜査なら、犯人にまつりあげられる。しかし、本書をとおして、それはきわめて短絡的なモノの見方・扱い方であると感じている。そして、「風が吹けば桶屋がもうかる」の方があるいは正しいのかもしれないなどとも思う。いずれにしろ、因果関係とは、深いものなんだなあと感じている。

第1章は次のように始まる。「ネズミが襲来して街に殺到する。道路を埋めつくし、ゴミ箱をあさり、家に入ってくる。街の人たちはこのような光景をかつて見たことがなく、侵入するネズミを追い払って駆除しようと試みるものの、失敗に終わる。ネズミが最初に現れた数日後、胃の調子がおかしくなって病気になる人が出始める。中には命に関わる場合もある。病気は広がり、街の住民の過半数が感染する。ネズミの侵入も、伝染病も、この街にはそれまで起こらなかったことである。すると、次の疑問を抱く人が出てくる。ネズミが病気を引き起こしたのだろうか。 / これがネズミのせいなのは明らかなように見えるかもしれない。その地域の環境に新たな要因が入ってきて、それに続いてすぐに病気の蔓延が起こったのである。だが本当に、一方のものごとが他方のものごとを引き起こしたのだろうか。もしかすると、ネズミが現れた直後に人々が病気になったのは、ただの偶然の符合かもしれない。あるいは、病気を持ち込んだ何か別の要因があったのかもしれない。ある若い女性がちょうど、外国旅行から体調を悪くした様子で帰ってきたところだった。彼女が病気を持ち帰ったということもありうる。 / 以上の問題は、原因を特定することの重要さを示している。もし、病気が蔓延し続けていることがネズミに起因するのなら、ネズミを封じ込めるなり根絶するなりすることは、おそらく高い優先順位を持つだろう。だが、もし原因が別のところにあるのなら、ネズミ問題は後まわしにできる。 / しかし、それ以前の疑問が一つある。一つのものごとが別のものごとの原因であるとはどういうことかについて、あらかじめ何らかの理解が得られていなければ、病気であれ何であれ、その原因を探すことにそもそもどうやって取りかかることができるのだろうか。これがあれの原因だと言えるようになる前に、私たちは当然、因果性とは何かを知っていなければならないのではないだろうか。私たちは、因果性の理論を必要としている。そして、個別の因果的な主張をする人は、ともかく何らかのそのような理論を手にしているのでなければならない。そうでなければ、その主張は中身がないことになるだろう」。

そして「本書は、因果性の主要な諸理論、さらにそれをとりまく議論や論争へと読者を案内するものである。原因が結果を産み出すのは、結果を保証することによってであろうか。原因は結果に先立たなければならないのだろうか。因果性は物理学の扱う力に還元できるであろうか。そして、因果性を単一のものごとと考えることはそもそも正しいのだろうか(「はじめに」)」との問いに答えようとするものでもある。

海外では、因果性の哲学に関するリーディングスやハンドブックが出版されて、この分野は活況を呈しているらしいが、「現状では、因果性の哲学を主題的に扱った日本語で読める本はあまりない(「日本の読者のための読書案内」)」という。つまり本書は、その数すくない中の貴重な一冊ということになるのだろう。

2018年3月18日にレビュー

以下、目次

はじめに なぜ因果性なのか 第1章 問題(因果性のどこが難しいのか) 第2章 規則性(結びつきのない因果性はあるか) 第3章 時間と空間(原因は結果よりも前に起こるか) 第4章 必然性(原因はその結果を保証するか) 第5章 反事実条件的依存性(原因は違いを生じさせるか) 第6章 物理主義(すべては伝達に尽きるのか) 第7章 多元主義(異なる多くの因果性があるのか) 第8章 原初主義(因果性は最も基礎的か) 第9章 傾向性主義(何が傾向を持つのか) 第10章 原因を見つける(それはどこにあるのか) 一言だけのあとがき / 解説(谷川 卓) 日本の読者のための読書案内(谷川 卓・塩野直之) 読書案内 索引

「めぐり合わせ」~「デイヴィッド・ヒューム」
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2016-05-26


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