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『周作人読書雑記1 (東洋文庫)』 中島長文訳 平凡社 [読書案内]


周作人読書雑記1 (東洋文庫)

周作人読書雑記1 (東洋文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2018/01/28
  • メディア: 単行本


清朝-民国・過渡期の進歩的知識人にとって読書(知的世界)とは・・・

周作人は魯迅の弟。『周作人散文全集』全14巻がある。「そうした著作の中から、直接書物に関する文集を集めて、彼が古今東西の書物をどう読んだか、どう読むべきかと考えたかを示す選集が出た。・・・『知堂書話』上下2巻である。本書はこの『知堂書話』を参考に、増訂し編成を変えて翻訳したもの」。

清朝が破綻するまで、読書人というと科挙試験に合格するためにだけ本を読むという具合だった。読む本ときては四書五経に決まっていた。辛亥革命で清国が崩壊して民国の建設が始まる。政治面ではその後の混乱が長引くが、文化的には学制の改革や文学革命、新文化運動で大きく局面が展開した。周作人らは、その急先鋒となって、科学的知識と人道的見地から古今中外の書物を批判的に読むという立場を打ち出し、新しい知識階級を作るべく文化界を牽引した。『自分の畑』をはじめ次々と文集を出版し、散文の名手としても名を上げ、民国の文壇の重鎮となった。ずっとのちに日本の中国侵略が東北三省だけでなく全土に拡大し、周作人が日本の協力者になると、彼の評判はむろん地に落ちたが、それまでは兄の魯迅とその声望を二分するだけの地位を確立していた。その啓蒙主義的文章は外国人であるわれわれが今読んでもなんの違和感もない。むしろ五四運動から百年経つ今でも中国人の宿弊に対しては有効ではないかと思われる。

以上、「第一巻あとがき」から引用した。ざっとページを繰ってみるだけで、取り上げられている書籍名からたいへんな読書家であったことが一目瞭然である。日本に留学していた時期もあり、本巻には『東京の書店』と題するものもあり、「東京の書店というとまず最初に思い出すのはなんといっても丸善である。・・中略・・わたしは1906年8月に東京に行き、丸善で最初に買ったのはセインツベリーの『英文学小史』とテーヌの英訳本4冊であった。」などとある。また、『老年の書』では「谷崎潤一郎の文章はわたしの好きなものだ。だがそれはたいていが随筆で、小説は最近の『春琴抄』『芦刈』『武州公秘話』など何篇かのほかは、多く読んでいない。』とあって、そののち長い引用がなされている。日本語、英語に堪能であったようである。

先に「中国人の宿弊に対して有効」という言葉を引用したが、『四庫全書』漫談 の言葉は、それに相当するものにちがいない。もっとも日本人についても有効に思う。そこには「中国人の読書人は『四庫全書』のことを言うと、どうも五体投地して敬服するが、これはしかし間違っている。古い人間はいうまでもないが、新しい者も欧米人の影響を受けて、やはりみなこれがたいした文化遺産だと思い、その実際の価値については実のところそれほどよくは知らない。『四庫』とは何か。これは清朝の乾隆帝弘暦が開いた図書館に過ぎず、蒐集したものは多いけれど、すべて謄写を経た、校勘を問題にしない抄写本で、装丁はきれいだが、内容は当てにならず、とてものちの諸家の校本が学術的価値を持つのに及ばない。・・」などとある。

索引が付されておらず、各項それひとつが一冊の書籍について記されているわけではない。雑多である。それでも、周作人を介した魅力的な読書案内として見ていくことができるだろう。清朝-民国・過渡期の進歩的知識人にとって読書(知的世界)とは如何なるものだったのか知るうえでも大いに役立つように思う。

2018年3月16日にレビュー

周作人(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E4%BD%9C%E4%BA%BA


日本談義集 (東洋文庫)

日本談義集 (東洋文庫)

  • 作者: 周作人
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2002/05/24
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)



周作人「対日協力」の顛末―補注『北京苦住庵記』ならびに後日編

周作人「対日協力」の顛末―補注『北京苦住庵記』ならびに後日編

  • 作者: 木山 英雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/07/27
  • メディア: 単行本



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