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まえがき:《「世界史」で読み解けば日本史がわかる》神野 正史著 [日本史]


「世界史」で読み解けば日本史がわかる

「世界史」で読み解けば日本史がわかる

  • 作者: 神野 正史
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2017/09/02
  • メディア: 単行本



以下、上記書籍の「まえがき」部分の引用

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20世紀初頭、ベルギーを代表する史家H・ピレンヌが『ヨーロッパ世界の誕生ーーマホメットとシャルルマーニュ』を発表し、史学会を論争の渦に巻き込んだことがありました。

所謂「ピレンヌ命題(テーゼ)」問題です。

それまで、ヨーロッパ社会が古代から中世へと移行する歴史的背景は「古代ローマ帝国の滅亡」を以て説明されていました。

この説にはいくつかの不合理性が指摘されていたものの、当時の「ヨーロッパ」という固定観念に縛られていた史家には他に対策も思いつかず、ジレンマに陥っていました。

そうした出口の見えない迷路に迷い込んでいた史学会に一石を投じたのが、冒頭のH・ピレンヌです。

彼はこうした「ヨーロッパ」という“枠”を取っ払い、隣接するイスラーム文化圏の動きと連動してこれを説明しようとしたのです。

すなわち、中東世界においてイスラームが成立したことが、巡り巡ってヨーロッパ社会・経済・政治・宗教・文化に激動をもたらしたのであって、ヨーロッパの中だけを見ているから真実が見えてこなかったのだ、と。

それまでの歴史は「ヨーロッパ史とその他の地域史」という歴史観からしか語られていきませんでした。

たとえ「世界史」を述べているようでも、蓋を開ければ「地域史のツギハギ」にすぎず、たとえば“歴史学の泰斗”と二つ名で呼ばれる、あの有名なL・ランケですら、彼の大著『世界史』を紐解くと、中身はほぼ「ヨーロッパ史」。

それにイスラームが少し、東アジアはほぼまったく登場しません。

彼らの認識が「ヨーロッパ=世界」だったことが読み取れます。

この「ピレンヌ命題」には「風が吹けば桶屋が儲かる(バタフライ効果)」的な側面もあって非難も受けましたが、その正誤より、それまでの狭小な歴史観を乗り越え、広く、“世界史的観点”から解き明かそうとした功績は大きなものでした。

ピラミッドのようなシンプルな形ですら、これを平面的に捉えようとした途端、真横から見れば三角形、視点を斜め上に移せば駒形(五角形)、斜め横から見れば凧形(四角形)、真上からなら正方形・・・に見えてしまいますが、そのどれもが誤り、真の姿はあくまで「四角錘」です。

仏典にも、象を触った盲人たちがそれぞれ、腹を触った盲人が「天井のような生き物」と評したのを皮切りに、鼻を触って「縄のよう」、頭を触って「岩」、足を触って「臼」、尾を触って「蛇」とそれぞれ評する・・・という寓話(故事「象を評す群盲」)がありますが、これもそうした「木を見て森を見ず」の一例と言えましょう。

ましてや「歴史」などは、ピラミッドや象など比較にならないほど、多面的・立体的・構造的・体系的で客体的な存在ですから、これを側面的・平面的・短絡的、そして恣意的に捉えるならば、たちまち“真の姿”からかけ離れた別の姿を現わします。

日本人として生まれたならば、自国の歴史「日本史」を学ぶのは当然の責務といえますが、しかし、それダケを学んでも「ピレンヌ以前の歴史観」「二次元で捉えようとするピラミッド」「群盲が評する象」同様、歴史は真の姿を現しません。

本書も、H・ピレンヌ同様「バタフライ効果」との謗りを受けることも覚悟のうえで、日本史のさまざまな場面を思いきった世界史的観点から見ていくことで、今まで日本の中から見てきた日本史の別の側面や意外性を発見していくことを試みたものです。

本書読了後、「ああ、おもしろかった」で終わるのでもなく、「“風桶”もいいところじゃないか!」と揚げ足を取るのでもなく、本書を通じて「物事を見るときはつねに多面的に考究することが大切」だということを実感してもらえたなら、本書が世に出た意義が果たされたことになり、筆者としてこんなに嬉しいことはありません。

平成29年8月 神野 正史(自署)

神野 正史(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E9%87%8E%E6%AD%A3%E5%8F%B2

爆笑せきらら日記 - 奧さんの目から見た神野の観察4コマ日記
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