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週刊文春が目指すもの(「週刊文春」編集長の仕事術 から) [マスメディア]


「週刊文春」編集長の仕事術

「週刊文春」編集長の仕事術

  • 作者: 新谷 学
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/03/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



上記書籍で、心に残った部分を引用してみる。

**************

政治とは人間がやるものだ。よって、政治を書くということは人間を書くことだ。その政治家を一人の人間として知り尽くしていなければ、本当の政治は書けない。(略)

よく、総理と会食する記者を「御用記者だ」と批判する人間がいるが、私からすると全くナンセンスである。一国の総理大臣は最強のニュースソースであり、あらゆる機密を知る立場にある。機会をつかまえて、その権力者に食い込む努力をするのは当然だ。会食はその絶好のチャンスだろう。

批判されるべきは、深く食い込んだことによって、権力者にとって都合が悪い事実を書けなくなってしまうことだ。もちろん、相手との信頼関係を維持するために書き方や書く時期について柔軟に臨むことはあるだろう。だが、「こんなことを書いたら切られるんじゃないか」「嫌われたら困る」といって顔色を窺うようになったら、ジャーナリストとは言えない。(略)

『戦後政治家論』(文春学藝ライブラリー)という本がある。著者は阿部眞之助という東京日々新聞、今の毎日新聞の編集局長。彼が昭和27~28年に月刊『文藝春秋』に連載し、文藝春秋読者賞を獲ったものをまとめた本だ。ちなみに阿部さんはのちにNHKの会長になった。本書はとても優れた政治家の人物評伝だ。この中に三木武吉のことを書いた章がある。三木氏の女性関係についての記述が延々と続く。三木武吉という人はお妾さんが次々にできて、しかも別れた後も面倒を見続けたという。引っ越すたびに、お妾さんがぞろぞろと大勢一緒についていく。貯金のようにお妾さんが増えていった、などと書いてある。

なぜこんなことまで書くのか。阿部氏の説明はこうだ。「これは、私がスキャンダルを好んでバクロする悪趣味によるものではない。彼から女話を取り去るなら、三木という人間の半分しか語らないことになるからだ。女に対する態度が、すなわち彼の政治に対する態度でもあるからだ」。女性たちに対して、どういう接し方をしたのかということの中にこそ、彼の人間性、政治家としての本質がにじみ出ている、というのだ。読みながら思わず膝を打った。

(だいぶ長々引用している。新井氏は、無断で「週刊文春」の引用などしているネットサイトを見出すと、電話等で文句を言うこともあるらしい。怖ろしいので、つづく部分は強調表示として、「宣伝」をしておく。もっとも、上の部分の後に記されているのを引用するだけだが・・・)

それこそが週刊文春が目指すものだ。なぜ、その人間を書くのか。人間への興味というのは、まさにそこである。政治家だろうが、芸能人だろうが「憎たらしい」「けしからん」「やっつけろ」「やめさせろ」ではなく、やはり「人間っておもしろいよな」と思うこと。この「人間のおもしろさ」をとことん突き詰めて、「いったいどんな人なんだろう」とアプローチしていくのが、文藝春秋という会社の原点でもあるのだ。

***以上第3章 『懐に飛び込み、書くべきことを書ききる』p124-6から***

以上を読んで、文藝春秋創業者:菊池寛の小説の特徴を「ヒューマンインタレスト」と菊池本人の言葉を引用しつつ(だったと思うが)、大江健三郎が書いていたのを思い出した。つまりは、やはり、文藝春秋は、今日も創業者の遺志を継いでいるということなのだろう。

ジャーナリストが反骨なのはアタリマエ:宮武外骨
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2007-07-29

佐高信さんの言辞に「筆禍かる」と岩見隆夫さん
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2008-04-01-1

マス・メディアが〈大事件になる前に調査報道をしない〉理由
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2012-04-18

菊池寛と人間的興味(ヒューマン・インタレスト)の小説
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I3466489-00?locale=en

2017-05-30

戦後政治家論 吉田・石橋から岸・池田まで (文春学藝ライブラリー)

戦後政治家論 吉田・石橋から岸・池田まで (文春学藝ライブラリー)

  • 作者: 阿部 眞之助
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/04/20
  • メディア: 文庫



我、拗ね者として生涯を閉ず

我、拗ね者として生涯を閉ず

  • 作者: 本田 靖春
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/02/22
  • メディア: 単行本



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