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*「週刊文春」編集長の仕事術 新谷 学著 ダイヤモンド社 [マスメディア]


「週刊文春」編集長の仕事術

「週刊文春」編集長の仕事術

  • 作者: 新谷 学
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/03/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



たいへん『熱』を感じさせられる本だ。現役バリバリ編集長の仕事に向かう姿勢と方法が示される。

読後(中)感をいうなら、さながら、ホームランバッターのフルスイングを見せられているよう。空振りしても、それはそれで見ごたえがある。空振りも絵になる。当たれば、それが「文春砲」ということか。

ホームランバッターも、ひとりでは野球ができない。「カキ(原稿を書く役目)」として、「アシ(記事のデータを集めてくる役目)」として、「デスク」として著者はよくやってきた。それらの経験を経て、現在「編集長」の立場にある。それゆえ、チームを活かす方法も心得ている。

そもそも、本書を刊行し、ふつう「顔」を出さない編集長が人前に「顔」を出したのは、あらゆる情報が玉石混交となってネット上に飛び交う時代、「取材のプロセスも含めて『見える化』していかないと、記事そのものをなかなか信用してもらえない」ので・・・と(『おわりに』に)記されている。要するに、『週刊文春』の発する情報に説得力をもたせるため、といえる。

本書を通して、「週刊誌」発行の熱い現場を知ることができた。ほかの仕事にも参考となるにちがいない。

以下、目次〈(・・・)は、環虚洞による蛇足的補足〉

【1章「情報/人脈」】(全てのビジネスは「人」から始まる)
「人間対人間」でとことん付き合う / 本当の信頼は「直接会う」ことでしか生まれない / インテリジェンスな密会は早朝のホテルで / ゼロの状態からどうコネクションを作るか / 袖振り合うも全部ネタ元 / その世界のキーマンにたどりつく方法 / VIPが本当に信頼している人を見極める / 事前の準備とその場の肌感覚 / 敬意は表わしても迎合するな / 政治家との関係が深まった月刊『文藝春秋』 / 長期的な信頼関係をどう築くか / すごい人ほど社交辞令で終わらせない / 黒幕・石原俊介氏との「4人会」

【2章「企画/発想」】(予定調和はおもしろさの敵である)
みんなが右と言っているときに左を向けるか / 糸口を見つけたら、すぐに一歩を踏み出す / 仕事のおもしろさを教えてくれた「冒険家」編集長(設楽敦生) / 「おもしろがる気持ち」にブレーキをかけるな / 「ありそうなもの」を避け「見たことのないもの」を作れ / 「ベストな選択肢」から逃げるな / 私の雑誌作りにマーケティングの文字はない / どうなるかわからない」からおもしろい / 辛い時期こそフルスイングせよ / 基準は「自分がおもしろいかどうか」 / 何もない「更地」に「新たなリング」を立てる / 売れる企画の条件は「サプライズ」と「クエスチョン」 / 「文春砲のターゲット」はどう選ぶ? / 見出しがすぐに浮かぶ企画がいい企画 / 大切なのは「どうなる」ではなく「どうする」

【3章「依頼/交渉」】(難攻不落の相手から「YES」を引き出す
悩む暇があるなら、やれることは全部やれ / まず頼んでみる、断られてからが仕事(対、飯島勲) / 真摯な説得と地道な裏づけ取材(対、橋本徹) / しゃべる気のない人をその気にさせる方法 / 一筋縄ではいかない人物の交渉(対、一色武) / 「何のために働いているのか」を常に考える / 全ての出会いは一期一会。聞くべきことはその場で聞け(対、ショーン・K) / ネガティブなことほど、早く、率直に伝えよ / 親しき仲にもスキャンダル(対、山崎拓) / 懐に飛び込み、書くべきことを書ききる(対、山口敬之) / 直木賞作家(海老沢泰久)に学んだ取材のイロハ(「沈黙は大切だ」) / スピードが熱を生む。走りながら考えよ(地下鉄サリン事件) / オーソドックスな調査報道が実を結んだ枡添問題

4章「組織/統率」】(ヒットを生み出し続けるチームはこう作る)
まずは一対一の信頼関係を結べ / 一緒に働きたい人間に目配りをしておく / 嘘をつかない。弱い者いじめをしない。仕事から逃げない (新谷班3原則)/ 「命の危険を感じた」。体を張った記者に敬服(対、清原和博) / ブレーキをかけるのもリーダーの仕事(「転戦」「撤収」の判断) / すぐに「攻められる」チームを作っておく(「投入」の判断は直感) / モチベーションを高める「仕組み」を作れ(ネタを出した記者が必ず「カキ」を担当) / スクープで完売すると特別ボーナス / 厳格な指揮命令系統と柔軟なチーム編成 / 「健全な競争」と「共同作業」のバランス / とにかく明るい編集長(花田紀凱) / 編集長は「いること」に意味がある(花田紀凱) / 異論・反論がリーダーを鍛える(織田信長「もっと囀れ、もっと囀れ」) / ネガティブなことほど早く報告させよ / 「フェア」こそがヒットを出し続ける秘訣 / リーダーシップの根源は「信頼」である(中村竜太郎記者) / 迷っている部下とは生き方についてじっくり語れ / リーダーの首は差し出すためにある / 「出る杭」のような人材を伸ばせ(朝日新聞の「吉田調書問題」などはつくづく残念)

【5章「決断/覚悟」】(リスクを恐れず壁を突破する)
「とにかくスクープ」の姿勢を崩さない / 「論」より「ファクト」で勝負する(イデオロギーよりもリアリズムで戦う) / 過激にして愛嬌あり(宮武外骨の言葉) / 文春には「右」も「左」もない / 報じられた側の気持ちを忘れない (「週刊誌はクラスで人気のあるいじめっ子でなければダメだ」)/ 作られた「虚像」よりも「人間」が見たい(前田敦子「深夜のお姫様抱っこ」写真) / ベッキーさんのLINE画面流出はやりすぎか(ケースバイケース) / 「剛腕・小沢一郎」にひれ伏したメディア(妻からの「離縁状」/タブーを打つ。それこそが週刊文春が読者の信頼を得る方法) / 「白くする取材」を怠ってはいけない(冤罪の多い理由「白くする捜査をしてないから」警察庁長官) / 「トランプ的なもの」といかに戦うか(ただただ愚直に正真正銘の「事実」を権力者に突きつける) / 編集長が判断を下すときの3要件(正当性、合理性、リアリズム) / 「やる意義のある売れないスクープ」を掲載するか / いくら殴られようが倒れるつもりはない(対、巨人軍 /訴訟対策には万全を期して) / 限りなく「タブー」をゼロにする(対、元少年A / 現行少年法に問題提起) / 「ことなかれ」ではなく「ことあれかし」(週刊誌とは生体解剖だ)


【6章「戦略/本質」】(「売れない」時代のマーケティング)
メディアの「外見」の議論が多すぎる(いちばん大切なのは、そのコンテンツが「本当におもしろいかどうか」だ) / 強いコンテンツがあれば主導権を握ることができる / 敬意を払ってもらえる「ブランド」になる(対価を払うことへの抵抗感を払拭したい) / ビジネスは対極と組んだほうがおもしろい(「ドワンゴ」) / 今起きているのは「コンテンツ革命」ではなく「流通革命」 / 読者とダイレクトにつながる仕組み(週刊文春デジタル) / スクープも知られなければ意味がない(「スクープ速報」/ 話題にならないものはスルーされてしまう) / 課金へのチャレンジと脱・PV至上主義(「ネット民主主義」には、悪貨が良貨を駆逐するリスクが常にともなう) / いちばん大切なのは「読者の信頼」(DeNA事件 / 情報「玉石混交」の時代。派手さはなくても、地道にコツコツと正確で信用される記事を) / 「幹を太くする」投資をせよ(利益を生み出す「幹」を見定め、信じて踏ん張り「唯一無二」の存在に)

おわりに フルスイング主義で行こう(本書を刊行し、編集長が「顔」を出した理由。あらゆる情報が玉石混交となってネット上に飛び交う時代。『週刊文春』の発する情報に説得力をもたせるため。「取材のプロセスも含めて『見える化』していかないと、記事そのものをなかなか信用してもらえない」ので。)


戦後政治家論 吉田・石橋から岸・池田まで (文春学藝ライブラリー)

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  • 作者: 阿部 眞之助
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/04/20
  • メディア: 文庫



週刊誌風雲録 (ちくま文庫)

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  • 作者: 高橋 呉郎
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2017/05/10
  • メディア: 文庫



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