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『日本語で一番大事なもの』 大野 晋・丸屋才一 中公文庫 [日本語・国語学]


日本語で一番大事なもの (中公文庫)

日本語で一番大事なもの (中公文庫)

  • 作者: 大野 晋
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 文庫


本書には、辞典や文法書には収めきれない内容が盛られている

古語辞典編纂者で日本語の権威 大野 晋と J・ジョイス研究家であり作家・翻訳家でもある丸谷 才一による"異色対談"程度に思って手にしたのだが、その中身は「日本語で一番大事なもの」をめぐるこく深いものであった。

「日本語で一番大事なもの」とは助詞・助動詞をさす。つまり「てにをは」のことである。それが日本語の特徴であることは以前から聞いてきた。それで、古書店から『古典語現代語 助詞助動詞詳説 松村明編(學燈社)』など購入したが、まったくの積読状態であった。

本書の「解説1990」で大岡信はいう。《「てにをは」が日本詩歌の鍵をにぎっている・・/ 日本語が微妙な揺れ、陰影に富んだ表現を得意とするのも、「てにをは」の精妙な働きのためである》。本書は《「てにをは」の重要性と面白さを徹底追及した本で、かつてこのような機智と説得力に富んだ文法の書が書かれたことは一度もなかったと言っていい》。

本書には、辞典や文法書には収めきれない内容が盛られている。逆をいえば、これだけの濃くふかい内容をカットしたうえで辞典やテキストは成立しているということだ。特に、「日本語で一番大事なもの」が歴史上どのように変遷してきたか、文法事項としてある区分・用語に括られまとめられてはいるものの例外もあって説明のむずかしいものなどの話が、よい対話者である丸谷によって引き出されていく。日本語から見える日本人の思考様式もあぶりだされる。

大岡は最後にいう。《この本を読んで文法好きになる青年たちがたくさん出たら大したことだと思うが、私はまた、学校で文法にはつくづく参らされた思い出をもつ実にたくさんの元生徒、元学生たちが、この本を読んで得るであろうものの大きさにも、愉快な気持ちで思いを馳せずにはいられない》。

2017年3月6日にレビュー

古典基礎語辞典

古典基礎語辞典

  • 作者: 大野 晋
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2011/10/20
  • メディア: 単行本



岩波 古語辞典 補訂版

岩波 古語辞典 補訂版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1990/02/08
  • メディア: 単行本


目次

鴨子(かもこ)と鳧子(けりこ)のことから話ははじまる
『万葉集』の影響 / 「かも」の性格 / 「かも」「けり」は鳥の名前 / 「かな」への変化 / 暗い「かも」、明るい「かな」 / 「けり」は気付きの助動詞 / 言葉の変化、意味の変化

感動詞アイウエオ
歌語の代表 「あはれ」 / タミル語 avalam / 「ああ」と oh / 不景気な「あな」 / 語根としての「いさ」 / 「いざ」と「いで」と / エ音列で始まる言葉 / 王朝和歌の洗練 / 『万葉集』の「か」 / 「か」と「や」の違い / 「もーか」の呼応で生じる詠嘆 / 反語と願望 / 掛け声「や」に始まる / 切字の「や」へ / 普通名詞に添える「や」 / 質問の「や」、疑問の「か」 / 「や」の変化 / 反語の「や」 / 『風立ちぬ』の誤訳

「ぞける」の底にあるもの
本質を見抜く / 終助詞「そ」 / 濁音化の傾向 / 倒置による強調表現 / 連体形終止の係結び / 係結びの発達 / 『新古今』と係結び / 係結びの消滅

「か」と「や」と「なむ」
現代短歌と係結び / 起源は倒置表現/ 形式化する係結び / 強すぎる「か」 / 「か」に代る「や」 / 口語的な「なむ」 / 鎌倉時代初めに消滅

已然形とは何か
活用形の名と体 / 已然形のむずかしさ / ひねりの「なれや」 / 「あれや」と「あれな」 / 甲類、乙類の「け」「へ」「め」 / 「あ」と「よ」の区別

「こそ」の移り変り
連体形で結ぶ「こそ」 / 橋本文法への誤解 / 恋歌のやりとり / 「こそ」は感情的強調 / 「ど型」「のに型」「ものを型」 / 「こそ」の展開と滅び

主格の助詞はなかった
ヨーロッパに似せて / 「は」の誤解の根 / 助詞の本質的役割 / 「は」と「が」 / 主格も表わす「が」 / 「は」はなぜ係助詞か / 「や」「か」と「は」の結合

鱧(はも)の味を分析する
主格の「は」、目的格の「は」 / 「が」の上は未知、「は」の下は既知 / 「わが恋は」は王朝和歌の代表 / 助詞「は」と日本哲学 / 「も」と「は」の違い / 「も」は不確定・不確実の助詞

岸に寄る波よるさへや
「さへ」は「添う」の連用形から / 「さえ」は「添い」のなごり / 「すら」の下は反語・否定 / 本居宣長も間違えた伝聞の「なり」 / 「すら」から「そら」へ / 「だに」の謎とき / 「さえ」に近い「だに」の意味

場所感覚の強い日本人
外扱いにする「つ」 / 存在の場所をいう「の」 / 形容詞句をつくる / 「・・のごと」から「・・のごとし」へ / 格助詞へ展開 / 場所的感覚と「に」

現象の中に通則を見る
文法への恨み / 「が」は内扱い / 地名につける / 動作と結びつく「が」 / 連体形について / 「ば」と呼応する「が」 / 破格の西行

古代の助詞と接頭語の「い」
「あるいは」か「あるひは」か / 主格の「い」 / 「い」の三つの用法 / 一音節の接頭語と接尾語 / 「い」と「し」 / 朝鮮語の「い」との類似

愛着と執着の「を」
目的格の「を」 / 経由の場所、時間を示す「を」 / 接続助詞の「を」 / 『新古今』的な「を」 / 「ものを」の意味 / 「ものゆゑ」「ものから」のむずかしさ

「ず」の活用は z と n
否定の「に」 / 東国方言「なふ」 / 終止形の「ざり」は不必要 / 「ずは」は条件節 / アク語法「なく」 / 動詞に「なふ」、形容詞に「なし」 / 「じ」と人称

『万葉集』の「らむ」から俳諧の「らん」まで
「む」の一人称、二人称、三人称 / 批評の仕方 / 契沖の注のすばらしさ / 「らむ」の性質 / 「らむ」と「かな」 / 俳諧の場合 / 古典語の文法

「ぞ」が「が」になるまで
日本語文法の考え方 / 「ずは」は上を見る / 係助詞を二つに分類 / 連体形終止の一般化 / 君が言ったから『サラダ記念日』

解説 大岡 信

改版解説 金田一 秀穂


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