『出雲国誕生』 大橋 泰夫著 吉川弘文館 [日本史]
『出雲風土記』の文献史学、考古学、歴史地理学等の研究を踏まえ、「地方支配の拠点」としての《出雲国府を中心とする出雲国の姿について、みていく》内容
当初、本書について、古事記・日本書紀に記され、「大和」に対立するものとして存在したという「出雲」についての「神話」とされるモノを事実として裏付ける書籍であるかのように思ったが、そうではなく、奈良時代のはじめ(西暦713年)に元明天皇によって調査報告を命じられ、20年後に完成した『出雲風土記』に文献史学的検討を加え、さらに考古学、歴史地理学等の研究成果を踏まえて、律令制に基づいて設置された「地方支配の拠点」としての《出雲国府を中心とする出雲国の姿について、みていく》という内容。
本書によると、『風土記』は常陸・播磨など幾種類か残っているが、そのうち《ほぼ完全な形で伝わるのは、『出雲風土記』だけ》であるという。そして、《『出雲風土記』に示された出雲国の姿は、七世紀後半代に領域的な国が成立しそれにともない国司が派遣され、国府が成立したことを契機に官衙や官道が一体的に整備された状況を示している。・・略・・/ 出雲国のあり方が示すように、七世紀末頃に国府が独立した点については、国の骨格が形成され在地社会が大きく変容する契機となった点にその意義がある。この時期は古代国家にとって大きな画期であり、全国で国府成立を契機として国の形成が進んだ。こうした国府創設の実態が明らかにされているのが、出雲風土記である(「古代出雲国の成立」)》とある。それゆえ、本書は、出雲国だけでなく、他の「地方支配の拠点」の「誕生」と成長を示すものでもあるのだろう。
2017年1月3日にレビュー
2023-06-10 09:45
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