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『完訳・エリア随筆 Ⅲ』チャールズ ラム著 南條竹則 訳 藤巻明 註訳 [エッセイ]


完訳・エリア随筆 3

完訳・エリア随筆 3

  • 作者: チャールズ ラム
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2016/03/29
  • メディア: 単行本


「彫心鏤骨の新訳」で、「エッセー文学の最高峰」を味わいつくそう

はじめて『エリア随筆』を読む。本書は、4分冊で発行される『随筆』の3冊目である。『序』をみると、副題がついていて「故人エリアの一友による」とある。まだ、後続の出版予定があるのに、著者が「故人」とされている。これは、変だぞ・・と思う。故人の友は「旧友が身罷ったことを嘆くべきか、喜ぶべきかわからない」などと記す。「彼はあの危険な文彩ー反語というものを愛用しすぎた。不分明な言葉の種を蒔き、明白率直な憎しみを刈り取った。-よく真面目な議論の腰を折って、軽い冗談を差し挟んだが、それはたぶん、わかる人が聞けば、あながち場違いな冗談ではなかったかもしれない」「大そうな人物のように扱われることが嫌いで、老齢のため、自分にそうした資格が与えられるのを警戒していた」「その挙措動作は年齢よりも遅れていた。あまりにも大人子供であった」「こうしたことは短所にちがいないが、それでも、彼の著作のあるものを解明する鍵なのである」と結ぶ。

「序文」に5ページ(1段組、40文字x16行)が費やされる。それに対し、「序文」の註釈は、8ページ(2段組で、1段23文字x23行)である。そこには、「著者と編集者が遊び心で共謀して、エリア死亡をめぐる楽屋騒動を起こして、雑誌(掲載誌「ロンドン雑誌」)の人気連載記事の書籍化に読者の注意を引きつけようとしていたのではないか」云々とあり、「福原(麟太郎)はこの時期にラムがもはやエリアの執筆に嫌気が差していたという否定的な側面をエリア抹殺の要因に挙げているが、この編集部総出の盛り上がり方を見ると、必ずしもそうではないことが分かる」とつづく。註釈そのものが、ひとつの読み物となっている。「彫心鏤骨の新訳」とあるが、なるほどと思う。実に、註釈、解説に全体の半分の紙面が用いられている。段組の関係でいえば、本文の倍ちかい註釈があることになる。そこからは、ラムの生きた時代背景、当時の出版事情やら作家たちの動向やらが見えて面白い。

本書は、時間をかけて、ゆっくり読むに値する。『解説』に「引用とテクストの共同体」という項がある。《注目に値するのは、引用によって「ラムが何を目当てにしているか捉えるのにわれわれは誰しも時間を要するが、その理解の遅れにこそ価値がある」とブランデンが遅読を勧めている点である。どういう類比を意図しているのか時間をかけてじっくり向き合うことで、引用の周りにあるラム自身のテクストに対する理解も深まるのだ》とある。その点で、膨大な量の註釈に頼るなら、「古今東西におけるエッセー文学の最高峰」「英国エッセイ文学の最高峰」「英国ユーモアの典型」、「天下無類の書物」(林達夫)を味わいつくすことができるにちがいない。

2016年9月9日にレビュー

エリアのエッセイ (平凡社ライブラリー)

エリアのエッセイ (平凡社ライブラリー)

  • 作者: チャールズ ラム
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1994/10
  • メディア: 新書



エリア随筆 (岩波文庫 赤 223-1)

エリア随筆 (岩波文庫 赤 223-1)

  • 作者: ラム
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1940/09/10
  • メディア: 文庫



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