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『図書館をめぐる日中の近代: 友好と対立のはざまで』 小黒 浩司著 青弓社 [外交・国際関係]


図書館をめぐる日中の近代: 友好と対立のはざまで

図書館をめぐる日中の近代: 友好と対立のはざまで

  • 作者: 小黒 浩司
  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2016/04/13
  • メディア: 単行本


昨今の日中関係を鑑み、出版に

著者の植民地図書館研究論考の集成。1980年代~1990年代にかけて記したもの。昨今の日中関係を鑑み、出版に踏み切った(背中を押された)という。

目次・章立ては、第1部 友好から対立へ――近代期の日中図書館界( 第1章 和製漢語「図書館」の中国への移入// 第2章 湖南図書館の創立――中国での近代公立図書館の成立と日本// 第3章 対支文化事業による図書館事業――日中関係修復への模索// 第4章 日中戦争と北京近代科学図書館)  第2部満鉄図書館の歴史( 第5章 満鉄図書館史の時代区分 // 第6章 大連図書館の成立// 第7章 満鉄図書館協力網の形成// 第8章 満鉄児童読物研究会の活動――満鉄学校図書館史の一断面// 第9章 衛藤利夫――植民地図書館人の軌跡)

中国近代図書館事業の発端:湖南図書館は、日本の大橋図書館をモデルにしたものだという。《1912年、湖南省立第一中学校を退学した当時19歳の毛沢東は、それからの半年間を湖南図書館に通いつめ、自学自習の時期を送る。彼は開館と同時に入館し、途中2個の餅を買って食べる昼食時間しか休まず、閉館まで丸一日図書館で読書をした。毛は同館で初めて世界地図を見、世界地理や世界史を学び、アダム・スミス、ダーウィン、ジョン・スチュアート・ミルなどの著書を読んだ》という記述もある。

著者は、(『はじめに』において)、日本の図書館史研究への不満を表明している。図書館関係の単行本と雑誌を主な資料とする研究の「厚み」のなさに言及し、その原資料や周辺資料(記録・文書類)にも目を配って、思わぬ事実の見落としが生じないようにと勧めている。その点で、『第9章 衛藤利夫――植民地図書館人の軌跡』は、その模範となる論考と言えよう。戦後、日本図書館協会理事長も務めた衛藤は、戦前、帝大図書館から満鉄図書館に移る。大川周明と親しかった衛藤は、関東軍とも近く、満州国設立のため協力するにやぶさかで無い・・・。著書は《本章の目的は衛藤像の見直しにある。だがそれは、衛藤の個人的な「戦争責任」を問うことを目的としたものではない。満州など日本の植民地に展開された図書館事業と、そこに生きた多くの日本人図書館人に共通する「帝国意識」を探り、これまでほとんど顧みられないままになっている植民地図書館の歴史を解明する一つの突破口になることを目的としている》とある。たいへん興味深い論考だ。こうした「帝国意識」の持ち主が、《「けじめ」を欠いたまま》戦後日本の「民主化」を図ってきたのだ。いつでも、逆戻りする可能性は開かれていたということか・・・。

ということで、結論としては、無味乾燥な論文集ではないと言いたい。

2016年8月24日にレビュー
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『奉天三十年』原本(ドゥガルド・クリスティー Dugald Christie著)の初訳は衛藤利夫によるもののようだが・・・

《衛藤は自らの訳本を岩波書店の岩波茂雄に贈った。この書を一読した岩波は、計画中の岩波新書に入れることを吉野源三郎ら編集部に提案した。吉野は帝国図書館からその原本を長期に借り出し、1938年の3月ごろ矢内原に翻訳を依頼した。矢内原はおよそ半年で訳了、同年11月、岩波新書の創刊1・2冊として刊行される(p242)》。

本書には、なぜ岩波が、衛藤訳を採用しなかったか記されている。

暑い夏にはオークション(西尾実国語教育全集:教育出版)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2012-09-02


奉天三十年(上) (岩波新書)

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  • 作者: クリスティー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1938/11/20
  • メディア: 新書



人物でたどる日本の図書館の歴史

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  • 作者: 小川 徹
  • 出版社/メーカー: 青弓社
  • 発売日: 2016/06/30
  • メディア: 単行本



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