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『外道クライマー』宮城 公博著 集英社インターナショナル [スポーツなど]


外道クライマー

外道クライマー

  • 作者: 宮城 公博
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 単行本


現代におけるパイオニアワーク、冒険、探検の意味について考えさせられる

登山に関心があり手にする。「外道」という表題にも惹かれた。本道・正道からハズレタ、異端的なという意味であろうが、どんなクライミングをするのであろうか・・・。まずは、「読み飛ばしていい」とある巻頭の『用語辞典』を読む。けっこうオフザケ調である。それから、巻末の角幡唯介氏の『解説』を読む。角幡氏は、はじめて著者からメールを受けた時、「触らぬバカに祟りなしだな・・」と思ったという。その後、著者の「クライマーとしての実力と冒険家としての強靭な精神力を窺い知」って、「こいつはただのバカではなく、本物のバカかもしれない・・・」と思ったともある。そして、著者の「登山家としての特殊」性を「内側からあふれ出てくる強い自己表現欲求」と「反骨精神」にあると記し、さらに、著者の登り方については「従来の固定化されたカテゴリーで呼び表せるものではなく、スーパーアルパインクライミングだろうか・・・」と角幡氏は『解説』を結ぶ。いつのまにか「バカ」論議は消えてしまったが、「スーパー」の次に「バカ」が隠されてあるのだろう。もちろん、当初いだいたのとは異なる、リスペクトを含んだ意味においてだ。「スーパー」+「バカ」=「外道」かもナと読んで思う。

1章では、那智の滝を登って逮捕され定職を失ったことが、その後のなりゆきで出かけたタイ(当初ミャンマーを計画)のジャングルでの46日間沢登りの話が2章につづく。それは軽妙な旅行記ともいえる。古くは『東海道膝栗毛』の弥次郎兵衛と喜多八の道中記を想起させるものだ。だが、笑いの影には、低体温、溺死、滑落、餓死の危険が背中合わせに貼り付いている。そこから、現代における「冒険」の難しさについて考えさせられもする。なにしろ、著者は《 山で自分がいる場所が分からなくなると、少なからず恐怖を感じる。自分が進むべき明確な道が失われることで、旅として認識していたものが突如として不確定な冒険的行為へと変わるからだ 》などと記しながらも、死をヒリヒリ感じるような冒険を喜びとし、かつ同時に、(図らずしも)その手元にはGPS機能のついたスマホがあったりするからだ。現代の法制度や文明の利器は「冒険」を一瞬にして「犯罪」やただの「旅」に変質変容させてしまう。3章『日本最後の地理的空白部と現代の冒険』では、著者の冒険観が、経験とともに記される。総じて言うなら、本書は、現代における冒険・探検・パイオニアワークの意味について考えさせられる本である。そして、なによりも、宮崎公博の「外道クライマー」旗揚げ宣言でもあるのだろう。

などと、コムズカシイことを記したが、ただ単に、読み物として読んでもたいへん面白い。日本の「日常」では決して経験できないものをシェアしてもらえる。胴回りが「細身の女性のウエストぐらいの太さの」「少なくとも5メートル以上はある」にしきへびとホモサピエンスの二つの空腹な個体との遭遇については、《 高柳は血走った目で、「弱肉強食です。生きるか死ぬかなんです。分かっていないのは宮城さんのほうだ・・・。こいつを食って僕は生きのびたいんです。// 「分かった・・・。そこまで言うなら、殺ろうぜ」》と記される。

これなぞ、ほんの一例。

2016年8月14日に日本でレビュー
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以下、著者オススメの本


日本人の冒険と「創造的な登山」 本多勝一ベストセレクション (ヤマケイ文庫)

日本人の冒険と「創造的な登山」 本多勝一ベストセレクション (ヤマケイ文庫)

  • 作者: 本多勝一
  • 出版社/メーカー: 山と渓谷社
  • 発売日: 2012/05/25
  • メディア: 文庫



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