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『 海を渡ってきた漢籍: 江戸の書誌学入門 』高橋 智著 日外アソシエーツ [日本語・国語学]


海を渡ってきた漢籍: 江戸の書誌学入門 (図書館サポートフォーラムシリーズ)

海を渡ってきた漢籍: 江戸の書誌学入門 (図書館サポートフォーラムシリーズ)

  • 作者: 高橋 智
  • 出版社/メーカー: 日外アソシエーツ
  • 発売日: 2016/06/17
  • メディア: 単行本


整理に手が届かない江戸時代の漢籍が多い状況に、些かなりとも助け船を

著者は慶応義塾大學附属研究所斯道文庫教授。林望先生の後輩で、林望先生も著書で示し、講演で話す「こわい」阿部隆一先生の書誌学の演習、指導を受けている。本書は《各地の図書館で、整理に手が届かない江戸時代の漢籍が多い状況に、些かなりとも助け船を出せるかもしれない》《図書館の実務に当たられる方に、江戸時代の書物について何かのヒントをつかんでいただけるに違いない(『あとがき』)》との思いによるもので、だいぶ専門的だが、評者のような図書館実務とは無関係の漢学シロウトにも読めないことはない。本書中、原田種成著『漢文のすすめ』にも登場する長沢 規矩也先生などの名前を見出したいへん嬉しく思った。

『序章』では、著者が高校時代『論語』と出会ったこと、大學に入ってテキストに触れたくなったこと、和本を購入するまでになり、さらには「読むだけでなく、どのテキスト(本)を用いるか」どの版のどの印本を用いるか、面白くなっていったこと、さらに古書書物の世界に引きこまれた理由として「為政者と書物」との関係があることなど示される。徳川家康、柳生但馬守宗厳、沢庵の話など興味深い。

第1章『失われゆく書物の群れ』では、テーマに従って、「和装本」「「線装書」「漢籍」「準漢籍」「国書」「唐本」「和刻本」「写本」「刊本」「無訓本」「附訓本」「白文」などの説明がなされていく。

第2章『漢学者の仲間たち』では、学問の系統について示され、《日本でも、中世から近世初頭にかけては、古注本が隆盛でしたが、江戸時代はこの新注が幕府の定めた学問となり、皆それを勉強しなければならなかったのですが、中には異を唱える学者もおりました。(片山)兼山はまさにその一人で、弟子たちに古注本の出版を奨励し・・著名な学者をたくさん生み出し、こうして学術界の中心であった朱子学(宋学)とは異なった、独自の古典学を展開して、地道に、多くの人々の支持を得ていたのでした》という記述、兼山の子(淺川善庵)、孫(片山述堂)、ひ孫(片山修堂)のこと、その学問の系統が海保漁村のような学者に受け継がれていったことが示される。《良いテキストを得ること、それを校訂すること、そしてその成果を世に問うこと。これは、朱子学を奉じた江戸時代の学問の主流に大きな転換をもたらした考え方で、やがて安井息軒につながっていく》《江戸時代、最も読まれた古典である『史記評林』を見ても、初期の訓読にこだわったテキストから、後期の文字校訂にこだわったテキストへと趣向が変化していることは、江戸時代の漢文を知る上でとても大切なことです。// さて、この奥田遵の『校字史記評林』に序文を書いているのが、『文章規範』と同じ島田篁邨でした。島田氏は東京大学の漢文科を主宰し、明治の漢文教育の中心となる漢学者で、服部宇之吉、安井小太郎(朴堂)、島田鈞一などを輩出する源流ともいうべき人です。明治以降の漢文はここから始まったといっても過言ではないでしょう。そしてその師が海保漁村であったということは、これもまた一つの起点としてとらえられるでしょう》などという記述を通し、江戸から明治へ漢学の流れが見えて面白い。渡部崋山や森鴎外の著作で有名な『北条霞亭』の名もチラと出てくる。

第3章『読書と執筆ー原稿から成本』、第4章『活字と製版』、第5章『時代の様相ー文字の変化』、第6章「本屋の活躍ー『四書集注』の版権」、第7章『本に奉仕する人々』、附章「後藤点『四書』『五経』 あとがき 藩校・大名家蔵書等目録類一覧 主な漢籍レファレンスブック 関係略年表 索引

2016年8月11日にレビュー

漢文のすすめ (新潮選書)

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  • 作者: 原田 種成
  • 出版社/メーカー: 新潮社
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  • メディア: 単行本



増補 書藪巡歴 (ちくま文庫)

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  • メディア: 文庫



慶應義塾大学附属研究所斯道文庫ホームページ
http://www.sido.keio.ac.jp/usage/about_shido.html

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