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『 ラスト・ライティングス 』ルートウィヒ・ウィトゲンシュタイン著 講談社 [哲学]


ラスト・ライティングス

ラスト・ライティングス

  • 作者: ルートウィヒ・ウィトゲンシュタイン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 単行本


本書は、内容から言って、べらぼうな値段といっていいのではないか

本書は、ウィトゲンシュタインの晩年の遺稿集 全2巻の全訳。評者は、ウィトゲンシュタイン初体験。とてもとても内容を評する力はないが、印象だけでも残したい。第1巻は、分かち書きスタイルで、パラグラフに数字が配され、章節を示す数字が付されて聖書のようだ。当初、芥川龍之介の『侏儒の言葉』やビアスの『悪魔の辞典』を想起し、箴言めいた内容がパラグラフ毎に記されているように思ったが、そうではなく、分かち書きされてはいるものの一連の内容となっている。その内容・記述に見られる特徴は、「自問自答」である。読み進めながら、そういう風に哲学者は物事を考察をするものかという発見があった。次のようなパラグラフもある。《 120 もしすべてが通常の足取りで進むとしたら、語りに伴う内面の過程なるものについて誰も考えたりしない》。《 121 哲学とは言語使用の記述ではないが、それでも、言語において生活が言い表される仕方すべてに絶えず注意を払うことによって、人は哲学を学ぶことができる》。《150 私がこのノートでこれほど多くの疑問文を用いているのは、偶然ではない》。

「訳者解説」で、古田徹也氏が本書の内容、成り立ちや他の遺稿集との関係、本書を読み解くうえでのヒントを丁寧に解説している。「訳註」も、微細な文字で50ページほどある。著者独特の意味合いを帯びた言葉(「像」「ムーアのパラドクス」「家族的類似性」「アスペクト」「想像、表象」「ゲーム」「振りをする」「規準」)については、「用語解説」に詳しい。

《 ウィトゲンシュタイは、虚を突くような問いや比喩、あるいは奇抜な想定や思考実験によって、「心」や「言語」などの馴染みの概念について我々がもっている固定観念に揺さぶりをかける。我々が「当たり前」と見なしている視点が、実は狭い理解に縛られたものであること、いまのものとは別の見方がありうること、そのことを読者が気づくように促す。それはいわば、“目に入っているはずなのに見えていないものを見るように促す”こと、あるいは、“見えているにもかかわらず通り過ぎているものに、注意を向け、関心を寄せるように促す”ことであり、彼の用語で言えば、眼前の風景に対して「アスペクトの閃き」(用語解説参照)を体験するように導くことに他ならない。しかも、その体験は単に、もうひとつの固定した見方に落ち着くことではない。そうではなく、いま目の前の広がる世界の諸事象が、自分が思っているより豊かな相貌をもち、思ってもみない新たな捉え方へと常に開かれていることへの気づきなのである(「訳者解説」)》。

内容については、印象程度の評価しか記せないが、それでも本書が講談社からこのようなカタチで発行されたことの価値は評価できる。たぶん、M書房から発行されたなら1,2巻に分かれて定価各3000円、I 書店から出たなら、1巻もので7000円は超えるだろう。本書は、内容から言って、べらぼうな値段(もちろん安い)といっていいように思う。

2016年8月8日にレビュー

それは私がしたことなのか: 行為の哲学入門

それは私がしたことなのか: 行為の哲学入門

  • 作者: 古田徹也
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2013/08/05
  • メディア: 単行本



ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎篇 ケンブリッジ 1939年 (講談社学術文庫)

ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎篇 ケンブリッジ 1939年 (講談社学術文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/01/10
  • メディア: 文庫


以下、『東大生の本の「使い方」』(三笠書房)に掲載された養老孟司『感覚を取り戻す』ことを意識して読む(のめり込んで読まないと面白くない)からの抜粋

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ただ、テンポが合わない著者の本だとなかなかそうはいきません。作家はみんな、それぞれのスピード感で文章を書いていますが、それは精神的なものではなく肉体的な違いだから、合わないとダメなんです。

若い頃、ルードヴィヒ・ウィトゲンシュタインの哲学書に挑戦し、なかなか読み進められずに苦労しました。それを見た友人は「テンポが合っていないんだ」と。この著者の感覚に合わせようとすると、1行読んで、それを咀嚼するのに1週間くらいかかるというのです。

ウィトゲンシュタインは、考えながらゆっくり講義をしたそうですから、書くときもそうしたテンポだったのでしょう。


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