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*日本建築空間史: 中心と奥』安原 盛彦著 鹿島出版会 [建築など]


日本建築空間史: 中心と奥

日本建築空間史: 中心と奥

  • 作者: 安原 盛彦
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 2015/03/11
  • メディア: 単行本


建築をとおして知る、日本人の「空間」意識

たいへん興味深い論考。建築をとおして日本人が空間をどのように読みとり、切り取ってきたのかその意識の在り方を知ることができる。つまりは、建築から見る日本文化論、日本人論ということもできようかと思う。

著者は、縄文時代まで遡って考察をすすめる。1章 「竪穴住居」1節「竪穴住居と空間構成」の「柱と家づくりー中心性の発生」の項で、竪穴住居と柱との関係が論じられる。①「無柱の場合」から順に論議が進められ⑤「柱が4本立つ場合(図2-4)」において、次のような説明がなされる。《4本の柱は縦・横方向に柱間という形、概念を生み出し、一間(ヒトマ:一間四方)という4本の柱に囲まれた最小の平面四角のスペースをもつ空間を生み出す。そこが中心部(中心空間、core)となり、その周りに周辺部(周辺空間、peripheral area)を生み出す(図1)。それは二方向に軸線を生み出し、それが交わる部分が中心空間となる。交差軸の発生である。(略) 建物に、柱が囲う空間とその廻りの空間とがあり、それが住む人の意識に両者を分ける契機となる可能性を与えている。つまり内部空間を分節する契機である。中心部と周辺部との分節(アーティキュレイト)がなされてゆく、小さな竪穴式住居の基本形といえる》。

何もナイところに柱を立てることで、そこに「空間」が生み出されていく。それは著者の論議の仕方に似ている。当該書籍中のキーワードの一つに「間面記法(ケンメンキホウ)」がある。それは平安期に用いられた「建物の大きさ、平面的な関係を表現する方法」のことだ。それは、奈良期に用いられた方法と異なり、間口は示すものの、奥行きを示さない。そのことを某博士は「不備な点」とマイナス評価した。しかし、著者はその点を、「私にはそれは奥行きを記さないことに意味があったように思える」と記し、プラスの面を実際に掘り出して見せる。そのように、著者は、意味のナイところに、意味アルものを見出して、見えないものを見えるように助けてくれる。

「寝殿造」に関する論考では、『源氏物語』への言及もある。《紫式部は物語性ばかりでなく、寝殿造においての空間性を熟知していた。五感で空間を感じ取る感性、それを言葉で表現する知性をもっていた。紫式部を読んでいて驚くのは、言葉で空間を描くことの可能性の高さ、深さである。空間を建築や絵画によってではなく言葉で描くことができたということである。//逆に言えばこれほどまでに場・空間(寝殿造)を描写しなければ物語を表現するに至らないことがこの時代の物語表現の特徴を表象していると私考する》。

建築にかぎらず、日本の文化に興味・関心のある方であれば誰でも読んで興じることができるように思う。しかも、わくわくしながら・・・。

2016年6月21日レビュー


白井晟一空間読解―形式への違犯

白井晟一空間読解―形式への違犯

  • 作者: 安原 盛彦
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2005/09/10
  • メディア: 単行本



西洋建築空間史―西洋の壁面構成

西洋建築空間史―西洋の壁面構成

  • 作者: 安原 盛彦
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 単行本



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