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怖るべき言葉 「発見は?」

今、下記書籍を読んでいる。戦場カメラマンとして名をはせた岡村昭彦に関する本である。


岡村昭彦と死の思想――「いのち」を語り継ぐ場としてのホスピス

岡村昭彦と死の思想――「いのち」を語り継ぐ場としてのホスピス

  • 作者: 高草木 光一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/01/27
  • メディア: 単行本



なんでも岡村の母親は日本赤十字の創始者・佐野常民の孫娘であるという。「孟母断機 」に見られる孟子の母の激烈さを思い出しつつ読んだのだが、以下のエピソードが記されていた。


岡村は、幼き日、一日もかかさず寝る前に母親から訊ねられたのだそうである。

「今日は、どんな発見がありましたか?」 

母はそれだけを、毎晩ぽつりと言うのです。私もなんとか毎日答えているのですが、ときたま、今日は何も発見はなかった、とでも答えようものなら、滅多に怒らない母が夢中になって怒るのです。

「なんですって? 発見のないような一日を過ごしてはいけません!」


孟母と同時に、もうお一方を思い出した。上野千鶴子のエピソードである。それは、下記書籍に記されてあったのだが・・・


東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

  • 作者: 遥 洋子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2004/11/11
  • メディア: 文庫



なんでもギリシャ人の研究者が、流暢完璧な日本語で研究発表をおこない、参加した面々が質問もできずにいるとき、上野千鶴子先生の発した言葉は・・・(以下、引用)


鎮まりかえる教室のなか、憮然とたたずむ発表者を前に、どう収拾をつければよいのか茫然自失の私の耳に、聞きなれた声が飛び込んだ。

上野教授だった。

「発見は?」

そのゆっくりとした響く声は大地震のまえの地鳴りのようだった。底冷えのする恐怖が呼びおこされる。

「発見は?」 

もう一度ゆっくり同じ言葉を投げかける行為に、教授の怒りも頂点に達しているのがうかがえた。

クラス全員固唾を吞んで成り行きを見守るしかなかった。学者対学者。プロのお出ましとなれば、もう、学生の出番はなかった。

勝負は見るまでもなかった。

研究は、表出する現象の裏側に潜む何らかの発見なしでは研究たりえないこと。研究以前の問題。発表どころか、一から出直すしかないほどに、完膚なきまでに一人が叩きのめされるさまを目の当たりにした。

ボコボコだった。ギリシャの学者は真っ赤な顔を苦痛に歪めていた。

となると、その学者が皆に二時間かけて発表したことは、「私は日本語が上手」ということだけになる。賢さの陰に隠れた落とし穴を垣間みた気がした。




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