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*碇(いかり)の文化史』石原渉著(思文閣出版) [民俗学]


碇の文化史 (佛教大学研究叢書)

碇の文化史 (佛教大学研究叢書)

  • 作者: 石原 渉
  • 出版社/メーカー: 佛教大学
  • 発売日: 2015/03/30
  • メディア: 単行本


比喩としての「アンカー」の理解がいや増す

リレーの最終走者を「アンカー」といいます。「アンカー」という言葉からは、なにか重要な役割を担っている感じがあります。アンカー(anchor)を訳せば「碇(いかり)」です。文字通りの「碇(いかり)」が、航海・操船するうえで、船具としてどのような役割を果しているかを知るならば、比喩としての「アンカー」の理解もいや増すであろうと、「碇」をキーワードにネット検索しましたが、この本以外に役立ちそうな本がありません。アマゾンの「内容紹介」欄に「先行研究は希薄」とありますが、本当にナイもようです。

「はじめに」で、著者は執筆動機を次のように記します。「海の象徴といえば、誰しも思い浮かべるのは船や波そして鴎などの海鳥だが、船の象徴といえばまず浮かんでくるのが碇である。これは世界共通のことであり、とくに海事関係の企業、すなわち海運会社や水産会社の社章や社旗に碇をデザインするものが多い。また、世界各国の海軍は伝統的に碇を徽章としている。//では、碇とは船にとってそれほど大切なものなのだろうか。船には帆もあれば、櫂や舵、ロープや旗など、ほかにいくらでも船具はあるはずである。ましてや水上の移動手段である船にとって、動くための道具こそが重要であるはずだ。それに比べて碇とは、その船を固定するさいに用いる道具である。動くことを規制する道具なのに、なぜ人々は船の象徴として思いを馳せるのだろうか。碇の研究は、このような疑問から始まった」。

そして、これでもかというくらい密度の濃い調査研究の成果を披露してまいります。「歴史学という大きな枠組みの中から、ときには考古学的な見地から出土遺物をとらえ」、また、あるときには、文献資料(「万葉集」等)、絵画資料を駆使し、民俗例、伝承、風俗まで視野に入れながら、碇に焦点を当て、「単なる繋船具というだけでなく、碇の変遷を通してみえてくる文化史を浮き彫りにし」ています。

終章の「おわりに」で、著者は「わが国におけるイカリの変遷から、各時代における形態の変化、さらには石の碇や木碇から鉄の錨へと移り変わった理由を論述してきた。そこにあったのは、海に従事する人々への碇への改良と工夫に対する思いだった。//古来、「船板一枚、底は地獄」という諺がある。つまり海に生きる人々は常に危険と対峙した中で生活を送らざるをえなかった。そこには果てしない時の流れを越えて、いつの時代にも共通する概念がある。そしてそれは船の安全を守るための碇への信頼と、危機に直面しては、碇へ託す生還への希望があった。したがって人々はより安全性が高く、より堅牢で操作性の優れた碇を希求したのである。//丸木舟を碇泊させる程度の機能をもったイカリは、自然礫を簡易加工した程度のもので事足りたことだろう。しかし船の大型化が進み、波涛を越えて外洋に出て行く人々にとって、船とそのイカリは、みずからの生命を託するものであった。やがて・・・」と、記します。

リレーの最終ランナーには、希望が託され、報道のアンカー(マン)には、締めくくりの重要なマトメ役がゆだねられ、たしかに「碇(いかり)」のたとえはふさわしいといえます。聖書にも、希望のことが「魂の錨(いかり)」と表現されていますが、当該書籍をとおし、ナルホド納得の思いをいたしました。

2015年9月4日レビュー

『しんがりの思想』刊行 鷲田清一さん
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2015-07-25

以下、目次

序章//1.研究の視点/2.研究の方法/3.船の発達史(船の発展段階・先史時代の船・歴史時代の船)

1章 先史時代のイカリ//1.イカリと錘/2.先史時代の礫石錘に関する研究史/3.縄文時代の礫石錘(伊木力遺跡・ほか遺跡名省略)/4.弥生時代の礫石錘(原の辻遺跡、ほか遺跡名、省略)/5.礫石錘の形態分類/6.先史時代のイカリに関する考察

2章 古墳時代の古代のイカリ(碇)//1.古墳の線刻画にみるイカリの表現/2.舟形埴輪にみる古墳時代の船/3.後世に描かれた船とイカリの線刻画/4.古墳時代のイカリ/5.文献にみる古代の沈石・重石/6.船戸遺跡から出土した古代の碇7.イカリという名称/8.絵画資料にみる遣唐使船と碇の資料/9.考察

3章 「入唐求法巡礼行記」にみる碇(石ヘンに丁)//1.承和遣唐使節団の派遣にいたる経緯/2.承和遣唐使節団の航海/3.長江河口における碇の使用例/4.新羅船による沿岸航路上における碇の使用例/5.座礁時における碇の使用例/6.文登県清寧郷赤山村における碇の補充/7.「入唐求法巡礼行記」にみる碇に関する記載と考察

4章 中世の碇//1.日本国内出土の碇石とその研究/2.中国国内の碇石の変遷/3.長崎県松浦市鷹島町沖出土の碇石/4.海底に埋没していた大型碇の出土/5.碇石の諸形式ー分類と編年ー/6.蒙古襲来時の蒙古軍船とその碇

5章 中世和船の碇//1.絵画資料に描かれた和船と碇/2.出土した碇石/3.出土した碇身

6章 鉄製錨の登場とその原因//1.中国における鉄製錨の登場/2.日本における鉄製錨の登場/3.「錨」という表記/4.碇を喰ったフナクイムシの存在/5.素材からみた碇の変遷

補論 茨城県、南西諸島、沖縄本島で発見された碇石//1.茨城県波崎町の碇石/2.碇石の由来/3.南西諸島および沖縄本島近海から発見された碇石

終章//1.先史時代のイカリ/2.古墳時代のイカリと古代の碇/3.古代の用錨法/4.中世中国船の碇と和船の碇/5.鉄錨の登場/6.素材からみた碇の変遷/6.構造からみた碇の変遷/7.用途からみた碇の変遷

(章ごとに、「はじめに」と「おわりに」があるが、省略して表記)あとがき、挿図一覧


碇の文化史 (佛教大学研究叢書)

碇の文化史 (佛教大学研究叢書)

  • 作者: 石原 渉
  • 出版社/メーカー: 佛教大学
  • 発売日: 2015/03/30
  • メディア: 単行本



ヘブライ6:19
 この希望を,わたしたちは魂の錨,確かで,揺るがぬものとして抱いており,・・

エフェソス4:13,14
ついにわたしたちは皆,信仰と神の子についての正確な知識との一致に達し,十分に成長した大人,キリストの満ち満ちたさまに属する丈の高さに達するのです。 それは,わたしたちがもはやみどりごでなくなり,人間のたばかりや誤らせようとたくらむ巧妙さによって,波によるように振り回されたり,あらゆる教えの風にあちこちと運ばれたりすることのないためです。


旧新約聖書―文語訳

旧新約聖書―文語訳

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本聖書協会
  • 発売日: 1996/12
  • メディア: 単行本




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