SSブログ

「ものがわかるということ」養老孟司 著 祥伝社 [エッセイ]


ものがわかるということ

ものがわかるということ

  • 作者: 養老孟司
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2023/02/01
  • メディア: Kindle版



YouTubeを拝見するときの養老先生の肉声を感じます。これまでいろいろ読んできた中で一番に思います。その話す息づかいや間や話の展開が、いつもの先生の口調です。これは評者がそう感じるというに過ぎませんが、そう思います。

先生の本は、いずれも似たり寄ったりです。それがいろいろな角度で提供されます。先生は、刺さったトゲを大事にして、ずっと考えつづけるタイプであるとどこかで書いていました。本書も「ケガの功名」ならぬトゲの成果にちがいありません。

「わかる」ことも先生にとってトゲだったようです。本書のキーワードに「共通了解」「強制了解」「実証的強制了解」があります。先生の造語です。ちょっと引用してみます。〈こうしてみると、文明はまず言語などのシンボルによる共通了解に始まり、それから論理・哲学・数学による強制了解、さらに自然科学による実証的強制了解に進んできたと言えるでしょう「人は言語、通貨などシンボルを共有する」p64》。抜粋だけみると、難しく感じるかもしれませんが、はじめからずっと読んでくればわかると思います。大人には大人の、世間には世間の、数学には数学の、それぞれの世界の言語・約束事を習得していくことが求められるということになろうかと思います。それには「努力・辛抱・根性」が必要です。後から生まれた者には先生・先達から学ぶこと、学んで了解する・わかることが課されているということになりましょうか。ほかに「ああすれば、こうなる」もキーワードと言っていいでしょう。人工の世界・都市において通用しても自然においては通らないという論調で用いられています。このように記すと、他でも読んだぞと思われる方は少なくないにちがいありません。

先生は本書に自分のことをけっこう書いています。そんなことを幼稚園の頃にわかってしまったというのもトゲとなったにちがいありません。次のように記されています。《私の家は鎌倉の警察のわきで、横丁でした。後に母から聞いたのですが、私が幼稚園から帰ってきて、横丁でしゃがんでいる。母は「何しているの」と聞く。「イヌのフンがある」「イヌのフンがあって、どうしたの」「虫が集っている。虫が来ている」。そして母が聞くわけです。「こんな虫のどこが面白いの」。/ どこが面白いのと言われても、本人が面白いのだから仕方ありません。こういうふうにして、人間といろいろな事や物を覚えるのです。大人は、子どもが好きなことをやっているときに、それが何のためかという無意味な質問を繰り返す動物です。私はそれを子どもの頃から知っていました p187「子どもという『かけがえのない未来』」》。

本書は要するに、先生のトゲをとおして「わかるがわかる本」といえようかと思います。と、書いて「あとがき」をみると。先生自身《さて、「わかる」ということが、わかっていただけたでしょうか。そんなわけないですよね》と書いているのだから身も蓋もありません。「まえがき」には《八十代の半ばを超えて、人生を振り返ってみると、わかろうわかろうとしながら、結局はわからなかった、という結論に至る。それで「わかるとはどういうことか」という本が生まれたわけで、結論があるはずがないのである》とあります。もうこうなると評者としては、やぶれかぶれですなあ。それでは、「わかる」について養老先生といっしょに考え問いつづける本ということで閣筆したく思います。


真説 老子: 世界最古の処世・謀略の書

真説 老子: 世界最古の処世・謀略の書

  • 作者: 高橋 健太郎
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2022/09/28
  • メディア: 単行本



nice!(1) 
共通テーマ:

nice! 1