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「真説 老子: 世界最古の処世・謀略の書」 高橋 健太郎著 草思社 [哲学]


真説 老子: 世界最古の処世・謀略の書

真説 老子: 世界最古の処世・謀略の書

  • 作者: 高橋 健太郎
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2022/09/28
  • メディア: 単行本


「行動原理主義」に毒された世にあって尊ばれるべき護身の書

まさに「新説」です。これまでの『老子』理解のイメージを打ちくだく内容です。と、言いますか、本書の内容こそ元来『老子』の意図するところであったようです。『老子』本文を読み解いていくときに、そのイメージと合わないところを排除して「これが『老子』であるぞ!」と説いてきたのが、今日の『老子』理解のイメージとして定着してしまったということのようです。本書を「新説」にしてしまったのは、過去の注釈者たちのマチガイに拠るということになります。

タイトルに「謀略の書」とありますが、それは出版社による売らんかなの誇張に思われます。「謀略」と聞いて評者がイメージするのは毛利元就や「狸おやじ」徳川家康であったりするのですが、著者は「謀略術」として、それは《「処世術」「権謀術数」と呼ばれるもの》であり《いかに自分の身を安全圏に置きながら、物事を成し遂げるかの理論と技術》としています。

その意味において、まちがいなく『老子』はそのようなものであることが示されて参ります。毛利元就というより「風林火山」の武田信玄のイメージです。信玄は「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」と言ったと聞きますが、ソチラの行動様式にちかい考えです。「出るクギは打たれる」ことになっていますが、実際のところは出ているのに出ていないかのように振る舞い(見せ)つつ、周囲の協力応援をおのずから得られるように取り計らい、所期の目的を成就させる方法ともいえそうです。しかも、弁舌に拠らずに、です。

つまらない個人的な思いを書き連ねてしまいました。実際のところはもっと深い内容です。さまざまな欲に捉われて世の中の表舞台に踊り出ては失脚し(場合によっては殺され)忘れ去られていく人間たち、そのような世界の動きを観察するなかで『老子』は世の中を支配し牛耳る法則を見出します。そして、その法則に畏れを抱き、それに応じて生きるよう促します。あくまでも護身のためにです。それは古来尊ばれてきたものを打ち捨て「行動原理主義」(「本人の意志と行動さえあれば、現実はどうとでも変えられる」)にしたがって、死に急ぐ者らへの警告でもありました。ちょうどそれは本書がこれまでの『老子』理解へのカウンターパンチとなるのと似ています。老子は、時代精神へのカウンター、アンチテーゼとなる(しかし普遍的な)教えを残して、自分の教えどおりに姿を消したことになっていますが、著者にはさらなる著作を残してほしく思います。たいへんオモシロイ本です。

と、ここまで書いてきて気づきましたが、はじめの段落に「新説」と記してしまいました。本書のタイトルは「真説」でした。やはり本書の内容の新しい印象が強かったからでしょう。失礼いたしました。


文庫 鬼谷子: 中国史上最強の策謀術 (草思社文庫)

文庫 鬼谷子: 中国史上最強の策謀術 (草思社文庫)

  • 作者: 健太郎, 高橋
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2020/06/04
  • メディア: 文庫



どんな人も思い通りに動かせる アリストテレス 無敵の「弁論術」

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  • 作者: 高橋健太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2015/06/30
  • メディア: Kindle版



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