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「宮本常一の旅学 : 観文研の旅人たち」福田晴子著 八坂書房 [民俗学]


宮本常一の旅学 : 観文研の旅人たち

宮本常一の旅学 : 観文研の旅人たち

  • 出版社/メーカー: 八坂書房
  • 発売日: 2022/07/25
  • メディア: 単行本



副題にある「観文研」とは、近畿日本ツーリストの馬場勇が、宮本常一を所長として1966(昭和41)年に設立した「日本観光文化研究所」の略称。

本書にある「旅」とは、いわゆる「観光旅行」ではなく「たび」である。イイ旅館に泊まって美味しいものを食べてお決まりの景色を見て帰るという消費行動ではない。「観文研」が発行した機関紙の表題にあるように『あるく みる きく』(発行期間1967年~1988年)という行動をとおして学び、学んだことを社会還元する営為である。

雑誌『あるく みる きく』はシロウト集団に託された。旅に出た若者たちがみずから執筆し、編集し、発行した。まだ海の物とも山の物ともつかぬ若者たちが、「観文研」で得た経験をとおして、巣立っていった。旅が彼ら彼女たちを大きく成長させた。「旅を通してその知見を深める独学のメソッド」フィールドワークの方法は宮本常一から伝わるものだ。

雑誌の内容は主に民俗学的なものである。観光旅行の明るいはなやかなイメージとはかけ離れている。よく馬場勇は許したものだと思う。逆に馬場のような、カネはだすが口はださない太っ腹な後援者を得て、はじめて成立したのが「観文研」であり機関紙『あるく みる きく』ということになるのだろう。つまり、企業利益重視の今日であれば成立しえない団体であり、雑誌ということになる。

可愛い子には旅をさせよ、という。若い時に旅をせねば年老いて語ること無し、という言葉もある。若い人たちを旅に出したくなる本であり、旅に出たくなる本である。(以下、引用)

「旅? うーん・・。やっぱり大げさに言えば、人生だろうな。非常に印象に残る言葉があるんですけどね。旅は‟他人の火”と書く、と。よそへ行って、人さまの火を借りて、煮炊きする、生きる。そういうことが、旅の語源ではないか、という説を聞いて、ははあ、なるほどと思ったことがあります。/ 確かに、人さまの生き様を見つけるのが旅だ。これが、私の人生にどういう影響を与えるのか考えるのが旅だ。私はそういうふうに旅を思っています。簡単ですけど」(伊藤碩男)p101

旅行や観光は一般に「消費」行動とみなされるが、こうした旅行は生産的な「投資」だ。場合によっては失うものも大きい博打だが、大局的には必ず資産となる。せめて若いうちに一度、できれば生涯に何度でも経験したい。/ 「やっぱりね、広い世界を見た人間ってのはものすごい、今も昔も大事なんですよ。そういう人間、旅人の目が世界を開くと』(加曾利隆)p315

旅をせずば老いては何を語らん、という。 / かつて旅人を「世間師」と呼んだことを思い出したい。(中略)旅に遊び、旅に学び、旅ができる社会をどうつくっていくかが、問われている。p316


宮本常一:人間の生涯は発見の歴史であるべし (ミネルヴァ日本評伝選232)

宮本常一:人間の生涯は発見の歴史であるべし (ミネルヴァ日本評伝選232)

  • 作者: 須藤 功
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2022/05/16
  • メディア: 単行本



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