「ユング心理学入門」河合隼雄著 培風館 [心理学]
青年期、言語を失うという一時期がありました。自明の価値体系が崩れたために生じました。「神国日本」の崩壊を見た国粋主義者らの、敗戦直後経験した心理状態がそれに酷似しているように思います。それはそれは苦しい時期で、その苦しさのゆえに生きているという状態でした。
それは自分という存在についての自覚を、知的認識においてではなく心理学的な体験というカタチで迫るものでした。自分の『影』と直面し、『自己実現』を迫られ・・『ドッペルゲンゲル』(二重身・自己像幻視体験)があり、また、『ヌミノース体験』(神秘体験)がありました。それらはまさに圧倒的なものでした。
丁度大学受験を控えた時期だったのですが、受験どころではありません。自分に降り懸かったトンデモナイ体験を分析するのが当時の日課になりました。
その頃、手にしたのが、当該書籍です。この書籍を通して自分の体験を対象化し、意味付け、受容していくことができました。「自我の統合性を脅かすもの」とも定義されている『コンプレックス』とは、まさしくキリスト教でいうところの「罪」と称するものであること、また、少なくとも心理学的意味においては「神」の存在を否定することなど決してできないことを悟るよう助けられもいたしました。
当該書籍がユング心理学の全容を知る上での最良の入門書であることは(発行されて40年近くなりますが)今日でも変わらないように思います。人の心に関心をお持ちの方はもちろんのこと、宗教、芸術に係わる方など広く多くの方にぜひご覧いただきたい書籍です。
2006年1月15日レビュー