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「ヴァンパイアと屍体 新装版—死と埋葬のフォークロア」工作舎 [民俗学]


ヴァンパイアと屍体 新装版—死と埋葬のフォークロア

ヴァンパイアと屍体 新装版—死と埋葬のフォークロア

  • 出版社/メーカー: 工作舎
  • 発売日: 2022/05/26
  • メディア: 単行本



ヴァンパイアといえば吸血鬼、吸血鬼といえばドラキュラ。ドラキュラといえば、クリストファー・リー。クリストファー・リーといえばドラキュラ伯爵。リーが演じたドラキュラ映画に背筋を凍らせた方は少なくないはず。スマートな紳士が美女のくび筋に食らいつく。首にのこした歯のあとが2つ。血がしたたる。

そういうイメージとはまったく異なるヴァンパイア像が本書で提示される。本書で、というよりヨーロッパでそのように信じられたヴァンパイアに関する報告:文書が複数示される。そこでのヴァンパイアはもっぱら太った農夫となる。そして、その災厄が身におよんだと信じこんだ人々は、墓を暴いてヴァンパイアを(死んだ人間を再び)殺した。その心臓に杭を打ち込んだりした。・・・

無知蒙昧と笑うなかれ。そういう愚かしいことを信じて愚かしいふるまいをするのが人間であるぞと教えてもらえる。自分もその時代にそこにいたなら同じふるまいをしたであろうことを考えると、いま何をかを信じている自分自身を反省する材料ともなる。

・・というのは一つの読み方であって、いろいろな読み方ができる。法医学等に関心のある方は、特に楽しめることと思う。

スティーヴン・キングの憑き物を落とすために
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2010-11-02-1


死の舞踏―ホラー・キングの恐怖読本

死の舞踏―ホラー・キングの恐怖読本

  • 出版社/メーカー: バジリコ
  • 発売日: 2004/04/01
  • メディア: 単行本


(以下「第12章 死後の体」p226.7から引用)

おそらく聖クスベルトの遺体が変化せずに残ったのは鹸化によるものであろう。鹸化というのは死後の変化の一つで、「中性脂肪が変化して新しい化合物、多くは脂肪酸ができる結果、体の脂肪組織の外見と密度が変化する」ものである。その化合物自体は屍蝋とよばれる物質で、エヴァンスによれば「体内の脂肪が完全に屍蝋に変わると、大きい筋肉の深部に淡紅色から赤い色があらわれ、それほど多くはないがときにはいくつかの筋肉がすっかり赤くなることもある。・・死後100年以上たった死体でも、筋肉を切開したとかんに目に入る赤味をおびた色が非常に鮮やかで、死後まもない筋肉のような印象を与えられる例も少数ながらある」。

このようなーー鹸化またはミイラ化によって保存されてきたーー体が吸血鬼伝説に一役買ったことはあきらかである。しかしこの二つの過程で死体に起こることはそれぞれまったく別である。そしてもっとも確実な証言のある吸血鬼は、ミイラ化していなかったーー血液が液体状だったことがその可能性を排除するーーことも、鹸化が起こるのに必要なだけ長期間埋められていなかったことも、たしかである。


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