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「ヤシの文化誌(花と木の図書館)」原書房 [文化人類学]


ヤシの文化誌 (花と木の図書館)

ヤシの文化誌 (花と木の図書館)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2022/07/21
  • メディア: 単行本



南国リゾートと聞くと自ずと湧くイメージ。それはヤシの木ではないでしょうか。本書はヤシの木をめぐるもろもろのお話しです。イギリスのキュー王立植物園やバッキンガム宮殿の門扉にある王家の紋章が黄金のヤシの葉で囲まれていることからお話しは始まります。

ヤシの木は、実は木ではなく草の仲間だそうです。そのような植物学的な、牧歌的な話が続くかと思いきや、歴史的な記述が出てまいります。

本書でよく取り上げられるヤシは、デーツを生みだすナツメヤシ。ココナッツを生むココヤシ。そして、油(パーム油)を生むアブラヤシ。みな商品価値の高いものを産みだします。とりわけアブラヤシはそうです。価値あるモノには人々が群がります。ゴールデンラッシュならぬパームオイルラッシュが生じます。それをめぐる話は強烈です。少し引用してみましょう。

熱帯のパーム油の安定供給を望むリーバは、1909年に誘致されてベルギー領コンゴにアブラヤシのプランテーションを設立した。以前はコンゴ自由国と呼ばれていたこの地域は自由でも国でもなく、ベルギー王、レオポルド2世(1835~1909)の私領地だった。人々も土地もすさまじいやり方で搾取され、強制労働、殺人、手首切断、性的暴行が弾圧の手段として用いられていた。王は1908年にこの領地の支配を断念し、領地とその負債をベルギー国へ委譲した。/ リーバは見込みがあると思った。(中略)イギリス白人労働者階級に対するリーバの態度は、容易にコンゴ人に対するものに変えることができた。//(中略)リーバのコンゴへの介入は永続的な植民地搾取の一環だったとする、逆の見解もある。公式には1960年に終わったとされる植民地時代の間、パーム油とパームカーネルは、リーバ・ブラザーズ社とその後継の会社によって、抑圧と強制労働のシステムを用いて抽出され、プランテーションの労働者は何か月も家族から引き離された。働くのを拒んだ者はしばしば投獄され、いったんそこに入れば、少なくとも1959年まではチコット(重い皮の鞭)を使って監督され罰せられた。p116-p117

植民地時代が終わったのは1960年とありますが、ついこの間ではありませんか。ちなみに、このリーバ・ブラザーズ社は1929年に合併して「ユニリーバ」となります。利権のために人は躍起になります。逆の例もあります。フランスのデュポン社などは、自社製品が売れるようにたいへん商品価値の高い大麻の流通を妨げるように政治家に働きかけたという話があります。デュポン社の件は本書には出ていませんが、読んでいてそんなことを思いだしました。ほかにも話題は多く、写真も多く、翻訳も読みやすく、いろいろ考えさせられる読み応えのある本です。


大麻草と文明

大麻草と文明

  • 出版社/メーカー: 築地書館
  • 発売日: 2014/10/06
  • メディア: 単行本



「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観

「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観

  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 単行本



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