東大生の本の「使い方」 重松 理恵著 三笠書房 [読書案内]
まあ、東大生ならそうだろうな・・・
著者は、元「東大生協の書店員」。彼女の観察した 東大生の本の「使い方」(選書の仕方、買い方、読み方・・)が示されている。主に第1章でその点が扱われる。目次(細目省略)を追うと、「東大生は何を、どう読んでいるのか?」 「おやつ感覚で本を買う? 驚きの『読書習慣』」 「本選びは『真剣勝負』」 「東大で『あの本』が売れない理由」 「『東大生』と『東大本』」 「良書を逃さない選書のコツ」 「東大のカリスマ書店員」 「思考が広がる、深まる『テーマ別読書』」 という具合だ。(まあ、東大生ならそうだろうなという内容だ)。
2章では東大生協での書籍売り上げデータから、よく読まれている本が20冊強紹介されている。目次(細目省略)を追うと「データで見る『頭のいい人の読書』」 「東大生が『世界で活躍するため』に読んでいる本」 「東大生が『スキルアップをするため』に読んでいる本」 「東大生が『幅広い教養を身につけるため』に読んでいる本」 「東大生が『最新のトレンドを追うため』に読んでいる本」。(東京大学出版会から『東大教師が新入生にすすめる本』というブックガイドが出ているが、その本を想起しながら読んだ。)3章では東大生が読んでいる「東大本」と「新書」の紹介。
4章は、東大出身者が語る本の使い方。伊沢拓司、水上颯、山口真由、藤原和博、上田正仁、養老孟司各氏が寄稿している。(読書歴の長い方ほど、内容に重みを感じるのは評者だけだろうか。)
総合して思うに・・・本書は一度通読した後、第2章にある掲載リストをコピーしてブックガイドとすればいいかなという印象である。
2019年2月3日にレビュー
以下、〈東大生の本の「使い方」〉第4章掲載の養老孟司「感覚を取り戻す」ことを意識して読む からの抜粋
自分が眺めている景色について述べる「叙景文」は、まさに感覚のアウトプットですが、今の学校でそれを指導できる先生はいません。
子どもたちが知らない昆虫について、図鑑を見せながら「これは○○という名前で××の仲間です」と教えても意味がない。手足の動き、羽のこすれる音、分泌物の匂いなど感覚を言葉にしてこそ、「どういう生き物なのか」が伝わります。
丸谷才一の「文章読本」(中央公論新社)の中に、井伏鱒二の文章が紹介されています。井伏は、自分が飼っている2羽のすずめが、ちゃぶ台の上で遊んでいる様子について2ページにわたって見事な文章を展開しています。
いまは、そうしたものを書ける作家はほとんどいません。
よく「小説が読まれなくなった」というけれど、原因はこのあたりにもあるでしょう。本来であれば、自分の感覚を言葉にするという「創作」をしなくてはならないのに、どこかにある言葉を上手に形を変えて提供するだけの「翻訳」が増えていますから。(p218,219)