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『考える江戸の人々: 自立する生き方をさぐる』 柴田 純著 吉川弘文館 [日本史]


考える江戸の人々: 自立する生き方をさぐる

考える江戸の人々: 自立する生き方をさぐる

  • 作者: 柴田 純
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2018/03/26
  • メディア: 単行本


「考える」ことについて考えさせられる良書

表紙イラストと副題(「自立する生き方をさぐる」)から、江戸時代における個々の生き方・生業などを事例をあげて紹介する本のように思ったが、そうではなかった。神仏中心の(自然や「運命」ともいうべきものに翻弄されることに甘んじる)在り方・生き方を脱して、自立した(「人を救うのは人だけだ」という)生き方を日本人が獲得していく過程が記されている。全般の記述からいけば、日本思想史に関する本であり、「考える」ことに重きが置かれている。

「まえがき」に相当する部分から、本書のテーマを示す部分を以下に抜粋してみると、以下のようになる。〈応仁・文明の乱以降、戦乱が打ちつづき治安が悪化するなかで、社会が混乱を増してくると、神仏の権威に懐疑心が生まれるようになっていく。やがて、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康が登場し、戦国の争乱が克服されて、一定の“平和”が実現されると、今までに比べて、人間的力への信頼が格段に高まってきた。16~17世紀とは、そうした大きな社会変動の時代であった。(p3)〉・・・〈本書の課題の一つは、この時期に人々の心の深部で何が起こりつつあったのかを明らかにすることである〉。

1(章)では「政治とは仏神の加護を期待するのではなく、人知によって克服すべき問題」という自覚をもった大名:井伊直孝(1590~1659)に注目する。

2(章)では、「治者(政治の担当者)」としての責任意識を自覚して藩政を領導する」その任務の自覚は、どのように獲得されたか。近世初頭の思想状況が検討される。

3(章)では、「問題が起こった場合、自分で考え、工夫して対策を見つけだし、行動していく主体的なあり方」が、大名など一部エリートだけでなく、一般武士や村の庄屋なども持つようになる。そうした人々がどのような問題意識を持っていたか、示される。

4(章)では、自立する生き方へと庶民を導くものとなった教育の機会(「寺子屋」)に焦点が当てられる。

『創意工夫する現代社会』は、全体のまとめ・総括部分となっていて、現代社会、AI も視野に入れた論議となっている。

2018年5月30日にレビュー

以下「目次」(一部省略)

人を救うのは人だけだ”

1 名君の条件
①井伊直孝の治者意識 ②直興の教諭と木俣氏の諫言

2 近世的思想とは
①中世の思想・文化状況(中世の本覚思想 / 真の知識人とは / 才覚の否定 / 本覚思想の崩壊)

②藤原惺窩と林羅山(天道思想 / 藤原惺窩 / 惺窩の問題意識 / 治者の任務とは / 「修己治人」の思想 / 林羅山 / 羅山の思想)

③那波活所の思想(活所の略歴 / 活所の天観 / 感通を本質とする人間的生 / 存誠とは / 出処進退 / 自然体に生きる / 一才一芸の肯定 / 動中静有り / 思を強調する立場 / 生意の強調)

④活所の中人思想(中人思想とは / 厳しい現状認識 / 中人の向上可能性 / 社会的中間層の登場)

⑤伊藤仁斎と荻生徂徠(伊藤仁斎 / 荻生徂徠)

3 中間管理職を生きる
①独立の精神(山本朝常 / 自立した民政官の登場)

②自立する武士の生き方( 沢辺北溟の略歴 / 儒学説 / 現状への批判 / 真の学者 / 常人たる北溟 / 常人の教化 / 志節を内に / 義理とは / 臣の道 / 士の道)

③工夫する庄屋の生き方(河内屋可生 / その上にまた工夫すべし / 西村次郎兵衛とは / 次郎兵衛の人間観 / 次郎兵衛の子育て観 / こころばせを誠にする / 堪忍の心得 / 意は我が身の主人 / 本心に仏あり / 道理をふまえて / 次郎兵衛の工夫 / 独りを慎む / 堪忍ならぬ気 / 次郎兵衛の回想 / 修己治人をめざす)

4 拡大する庶民の世界
①五個荘町域での寺子屋教育 ②寺子屋時習斎 ③時習斎門人姓名録の分析 ④幕末段階での就学率 ⑤五個荘町域外の入門者 ⑥五個荘商人の教養と商業倫理

創意工夫する現代社会
(江戸前期 / 江戸中期 / 江戸後期 / 身分型自立の社会 / 考える葦 / 思いやりと共感 / 「考える文化」の成立 / 智解ある人 / AI の限界 / AI と智解)

あとがき

藤原 惺窩
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4%E5%8E%9F%E6%83%BA%E7%AA%A9

林 羅山
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9E%97%E7%BE%85%E5%B1%B1

那波活所
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%82%A3%E6%B3%A2%E6%B4%BB%E6%89%80



メディアの展開 - 情報社会学からみた「近代」

メディアの展開 - 情報社会学からみた「近代」

  • 作者: 加藤 秀俊
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 単行本


15//37,39,62,63,68,73,81,83,84,85,87,88,89,94,96,98,103,104,106,112,113,114,115,116//126,127,130,131,135,136,138,139,166//169,214,215,236,237,247

みずから考え、工夫して行動することは、本書で明らかにしたように、近世に成立し、現代にまで引き継がれた共通の感覚で、おそらく正しい態度ではあろう。しかし現代では、やや安易に強調されすぎて、本来のあるべき姿勢とは少しかけ離れたかのように思われる。考え抜くという作業は、大変なエネルギーの要る力業であり、工夫もまた、本来「てま」「ひま」をかけるという意味で、多くの時間をかけてなしとげる行為をさし、誰でもが簡単にできることではないからである。

現在、どうすれば考え、工夫することができるようになるか、を説いたハウツー本が多く出版されている。しかし、本当の意味で、みずから考え、工夫する態度を身につけるためには、ハウツー本をいくら読んでも無理だろう。自分自身で、さまざまな機会に、深く考え、工夫するという試行錯誤をくり返していくなかで、自分にあった仕方を体得していくほかに方法はないように思われるのである。 (p236,237「考える文化」の成立)
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