『ダニ博士のつぶやき』 青木淳一著 論創社 [エッセイ]
著者は、なかなかたいへんな・・・
論創社ホームページに〈養老孟司氏推薦!「面白くて、ためになる本です。著者の青木さんはへそ曲がりじゃありません。世の中のほうが曲がっているんです」〉とある。養老さんは昆虫好きのよしみで本書を推薦したのだろう。だが、本書には昆虫の話もダニの話もほとんで出てこない。もっぱらの内容は、著者の「日常と日本語にまつわるエッセイ」である。
古くからの馴染みゆえに(その経歴から両氏は「馴染み」だと評者は勝手に思うのだが)、養老さんをダニ扱いする文章があるかと期待(?)したが、養老さんの話題はまったく出てこない。どうも著者は、推薦者よりずっと上品な人物のようである。推薦者が時につかう「バカヤロー」などの言葉もない。そもそもそのようなことはあえて取りあげない方にちがいない。
それでも、結構な「へそ曲がり」であることは、著者の「つぶやき」からつぶさに分かる。推薦者は「青木さんはへそ曲がりじゃありません」というが、同じく共に「へそ曲がり」なので、「へそ曲がり」が分からないだけである。だが、その「へそ曲がり」の「つぶやき」がたいへん面白い。ご本人も「あとがき」で記しているが、「年を取ると、どうしても小うるさくなってくる。そう言えば、落語に出てくる大家の小言幸兵衛も・・・」と書いている。
人生経験があって、時代、言葉、習慣の変化を見てきた者には、現在起きている物事にいろいろ言いたいこと(小言)が出てくるものだ。落語・小言幸兵衛で、その口からどんどん溢れ出る「小言」には感心させられ笑わせられもするが、幸兵衛よろしく著者もいろいろなことに反応する。読んでいくと、著者と同じく気づいていながら、きちんと受け留めることなくやり過ごしてきてしまったことに気づく。それも少なくない。ところが著者は、気づくだけでなく、しかるべきところに訴え出て行政を変えてきもした。そのように、著者はなかなかたいへんな人物なのである。
また、「本当にあった、ちょっと怖い話」も紹介される。著者の目には、(純粋だからかどうかは知らないが)「妖精」も姿を見せるという。戦時下の話も出てくる、学習院(初等科)時代、常陸宮と同学年で日光に疎開した話もでてくる。全般に、若い方ほど、目をとおすと学ぶ点が多いにちがいない。内容は「面白くて、ためになる」のだが、造本からいって(評者の勝手な「つぶやき」だが)少々高いのではないか、と思ったことだけ記しておきたい。あと、著者に倣って最後に一言。p109に「箪笥は人竿、羊羹も一竿」とあるが、「人竿」は「一竿」のまちがいだろう。
2018年3月7日にレビュー
NHK落語名人選(10) 六代目 三遊亭円生 小言幸兵衛・百川
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- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1990/05/25
- メディア: CD