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『三省堂国語辞典のひみつ: 辞書を編む現場から 』 飯間 浩明著 新潮文庫 [日本語・国語学]


三省堂国語辞典のひみつ: 辞書を編む現場から (新潮文庫)

三省堂国語辞典のひみつ: 辞書を編む現場から (新潮文庫)

  • 作者: 飯間 浩明
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/01/28
  • メディア: 文庫


「三国一」の国語辞典を紹介する本

『三省堂国語辞典(略して「三国」)』の編集の現場にいる飯間 浩明氏が、『三国』の編集方針や使い方について教示する本。国語辞典は、自社・他社ともに多く発行されているが、そのチガイを示す本。そして、『三国』を(できれば第一に)利用するよう勧める本。

『三国』の編集方針「基本姿勢は、あくまでも、現代語(の全体)を鏡のように映し出す辞書を作ること(p39、97)」。「およそ現代語なら、どんな材料でも等しく採集対象(p40)」とし、その「材料」には、「落語や時代劇のことば」、「新聞の短歌・俳句欄の古風なことば」、「インターネット掲示板やツイッターで交わされる俗語、珍語、よく分からないことば」など現に流通している言葉、そして「これから現代日本語として定着するかもしれないことば」が入るという。そのような方針で採集された中には、大型辞典にも掲載のない場合もあり、《新聞・出版界など辞書をよく利用する人たちの間には、「『広辞苑』にない言葉は『三国』を引けばある」という話が冗談まじりに交わされている(「『広辞苑』は信頼できるか」講談社 p203)》そうである。

当初、『三国のひみつ』を読んでいて、つらく感じた。その説明が自分の感覚と合わないのである。「現代語の(全体)を映し出す」鏡の前に立って、自分の古さを痛感させられたようだ。たとえば、「号泣」の説明を読んで、それはないだろうと思った。そこには、「号泣」②の例文として「静かに号泣する」が挙げられていた(p70)。「号泣」は、本来、声をあげて泣くもののはずである。しかし、その語釈の表記に〔俗〕とあるのをよく理解していなかったことが「それはないだろう」の理由であることが後に分かった。『俗語と話しことばのチガイ(p264~)』のところで、〔俗〕の意味が、「公式の場では使いにくく、テレビのニュースではなおさら使いにくいことば」「また、まともな生活を送っている人はふつう口にしない、卑語や隠語の類いも〔俗〕に入ります」と記されてあった。そして、再び先の説明に戻って(「号泣」②を〔俗語〕として取り上げた理由)、「誤用と言うにはあまりにも広まった用法であり、非公式の場でならば、ごくふつうに使われることばだと考えるに至ったからです。/ 第6版の時点から第7版の時点のわずか数年で、『号泣』の②の勢力はそれほどにも強くなっていたのです」を読んで納得した。要するに「号泣」②の用法は、社会的に是とされているわけでも、編集サイドで容認しているのでもなく、あくまでも、「現代」における一勢力として広まっていることを示したに過ぎないということが分かったのである。「号泣」②は、そのような中のほんの一例にすぎないのであろう。『三国』を見ると、そのような事例を多く見出すことができるのだろう。それは、いわば現代語の勢力地図を示すものであり、把握するものともなるのだろう。古い人間にとっては、「現代」における新たな勢力に遭遇する、覚悟を決めるうえでの助けとなるにちがいない。

三省堂の国語辞書というと、『大辞林』『新明解』を思い浮かべ、書店で『三国』を見ると、その存在意義を疑問に思ったりもしたものだが、本書を読んで、了解した。見直したと言っていい。その語釈の説明に《「にやり」の新明解、「すとん」の三国》とあるが、たいへんコンパクトな辞書に、「現代」が「すとん」と詰め込まれているのが『三国』であることも分かった。本書を読んで、『三国』は三省堂のナンバー1の国語辞書、三国一の国語辞典と言っていいかも・・・と、いま思っている。

2017年3月15日にレビュー

三省堂国語辞典 第七版

三省堂国語辞典 第七版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2013/12/11
  • メディア: 単行本



新明解国語辞典 第七版

新明解国語辞典 第七版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2011/12/01
  • メディア: 単行本



大辞林 第三版

大辞林 第三版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2006/10/27
  • メディア: 大型本


現在、『三国』をお使いの方は、『新明解国語辞典』や『岩波国語辞典』もあわせてお使いになってはどうでしょう。これらの辞書は、『三国』とは対照的に、やや古めのことばも多く載せています。あるいは『明鏡国語辞典』『学研現代新国語辞典』もいいですね。現代語重視ですが、『三国』とは少しタイプが違います。また、『新選国語辞典』は漢字に強く、『集英社国語辞典』は文章表現関係に強い。『現代国語例解辞典』は類義語の使い分けがくわしく、『旺文社国語辞典』は和歌・俳句まで載せている。これ以外の辞書にもいいものがあります。『大辞林』『大辞泉』『広辞苑』クラスの大型辞書も1冊ほしい。出かけるときのために、スマートフォンに辞書アプリをダウンロードするものいいでしょう。p280


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