『語彙力こそが教養である 』齋藤 孝著 角川新書 [日本語・国語学]
石黒圭氏の『語彙力を鍛える』と併せて、語彙力増強に努めたい
著者自身の語彙取得の経験、さらには、大学での授業における出来事、テレビ出演や対談等で得た知識をもとに、あらたな言葉を学び、自分のものとすることの大切さ、増し加えていく方法が示される。それは単に、試験でいい点を取ろうとか、カッコよく見せようなどという目先のことだけでなく、日本の教養レベル全体の底上げを意図してさえいる。そのことは、巻末で、「モテ」の基準を刷新し、イケメンではなく真に教養のある(語彙の連鎖が環を為し、知識の連合によって自分の世界・歴史「観」を語りうるような)男性を愛するよう、女性や周囲の者に勧めていることからもわかる。
共感をもつことのできる、わかりやすい論議がなされていくが、斎藤先生の著書をずっと読んできた者にとっては、冗長の感がないでもない。語彙を増やす方法自体は、目次を見ればおおよそ見当がつく。本書を一読して、「語彙力」増強の必要性を肝に銘じ、新たな語彙習得の動機付けを得たなら、石黒圭氏の『語彙力を鍛える 量と質を高めるトレーニング』を手元に置いて、(もちろん、金銭に余裕のある方は、両書を入手して)語彙の量・質の習得、増強に努めることをオススメしたい。
2016年11月14日にレビュー
以下、引用
そしてもうひとつ、言文一致を促進させた要因があります。それは、「速記」の技術が高まったことでした。
速記自体は古代ギリシャで始まったと言われていますが、日本に輸入され、実際に使われ始めたのが明治に入ってから。その影響で、伝説的とも言える噺家、三遊亭圓朝が自らの落語を口演筆記させて『怪談牡丹燈籠』を速記本として売り出しました。圓朝は古典落語をまとめただけでなく、新作落語にも精力的に挑戦していた、超人気の落語家です。この速記本は非常によく売れ、大衆に親しまれ、言文一致運動の後押しになったのです。口演筆記は、まさに言文一致の極みですからね。漱石はおそらくこの速記本の存在に影響され、あのような言文一致にいたったのではないか、と私は思うのです。
ペンネームの由来が「くたばってしまえ」でおなじみの二葉亭四迷も圓朝の速記本に影響を受け『浮雲』を書いた。幸田露伴は「明治文学にに最も功労がある人物」として圓朝を挙げている。三遊亭圓朝は、陰ながら、「現代日本語の祖」かもしれません。
圓朝の速記本は今も、『圓朝全集』として読むことができます。明治時代の「喋りの語彙」を味わっていただくには、うってつけの材料です。
以上、p169-170 (「圓朝と漱石とゲーテ」 第4部 8つの訓練で「使える語彙」にする)
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