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『頭にしみこむ微分積分(瀬山先生の数学講義)』瀬山 士郎著  技術評論社 [数学]


頭にしみこむ微分積分 (瀬山先生の数学講義)

頭にしみこむ微分積分 (瀬山先生の数学講義)

  • 作者: 瀬山 士郎
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2016/05/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


なんとか食らいついてモノにしたい

またまた微積分の本に手をだした。数学は苦手なのだが好きという変な性分で、デキナイだけに知りたい気持ちが強い。少し前に、ニュートン・プレス発行の『微分と積分 増補改訂版 (ニュートンムック)』を読んで感動した。その宣伝文句に「なるほどよくわかる、すぐわかる、高校で学ぶ微積分までいっきに理解」とあるので、「ホントかね・・」と読み始めたら、ホントにわかったので驚いた。

ソレで味をしめた。当今、ほんとにイイ参考書が出回っている。当該書籍の宣伝文句は「生きた講義が読める! 算数にさかのぼってみると 微分積分の本質が見えてくる」である。当方にとって、知りたいのは『本質』の部分である。それで、読み出した。結論から言うと、ニュートンムックよりは、難しい。第一、寝転んで読んでいて、眠くなった。変な尺度で、本の良し悪しを言うようだが、やはりできれば、読んでいるうちに、どんどん分かって、嬉しくなり、寝ていた身を起こすほどまでになって、一気に読めるというのがベストである。そういう点では、ムックが勝るが、これはこれでたいへんイイ本だ。デキナイ者(つまり評者)はデキナイなりに、食らい付いて著者の論議を追い、最後までなんとかいけそうな感がある。

内容については、著者まえがき(『読者の皆様へ』)に次のように記されている。《本書は微分積分学の意味の理解と基本的な計算技術について、2部構成で書いた本です。多くの本格的な教科書が、意味の理解と計算力の向上を一体として書かれているのに対して、本書第1部「微分積分学の考え方」では一般向けの解説書よりやや踏み込んで、しかし、本格的な教科書のような厳密性は追いかけず、小学校以来の速さや速度、あるいは三角形の面積を題材にして、微分積分学の意味を解説しました。つまり、定積分の値が原始関数の差として求まるのはなぜなのか、を微分の理解を通して説明しようということです。第2部「微分積分学の計算技術」では本物の技術を鑑賞するためのトレーニングとして、いくつかの典型的な計算技術を解説しました》。

『第1章 微分学とはどういう数学か』の締めくくりは次のとおりである。《結局微分とは不均質な状態を、ある特定の小さな部分や時間に限って均質だとみなして、その小さな場所や短い時間での濃度や速度を考えようとするものです。数学はこの考え方を数式や記号を使って展開してきました。それには状態を記述するための道具としての関数という考え方が必要になったのです。そこで次章では関数について考えてみましょう》。

『終わりに』から少し引用すると、《一方で、その計算技術には想像力による意味づけが必要なのです。数学が分かるとは、「自分が今行っている計算がどんな意味を持っているのかを理解すること」に他なりません。これがもう1つの大切なことです。記号の意味を理解し、記号操作の技術を十分に習得すること。これが数学を学ぶということです》。

本書は『瀬山先生の数学講義シリーズ』のひとつということだが、他の本も見てみたいものだ。

2016年8月4日にレビュー

「無限と連続」の数学―微分積分学の基礎理論案内

「無限と連続」の数学―微分積分学の基礎理論案内

  • 作者: 瀬山 士郎
  • 出版社/メーカー: 東京図書
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 単行本



幾何物語―現代幾何学の不思議な世界 (ちくま学芸文庫)

幾何物語―現代幾何学の不思議な世界 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 瀬山 士郎
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/12/10
  • メディア: 文庫



微分と積分 増補改訂版 (ニュートンムック)

微分と積分 増補改訂版 (ニュートンムック)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ニュートン・プレス
  • 発売日: 2016/04/21
  • メディア: ムック


『終わりに』

ここまでに、微分積分学という数学を、その考え方とその技術の2部に分けてお話ししてきました。微分積分学そのものはすでに古典的な数学といっていいでしょう。積分学はお話しした通り、アルキメデスによる放物線の求積にその源がありますし、微分学はフェルマーなどによる接線の考え方を源とし、その後17世紀のニュートン、ライプニッツなどにより、自然現象を分析する大切な道具として展開されました。その意味でも微分積分学は古典数学です。

数学という学問の性格

しかし、ここが数学という学問の不思議な部分なのですが、いったん確立した数学は決して古びることがありません。自然科学の多くの分野では、17,18世紀の科学的な結論や理論は科学史の文脈のなかで語られることはあっても、それをそのまま高校生が学ぶことはありません。数学でも17世紀の数学なら、数学史として語られてもよさそうです。もちろん、現在の日本の高校生が学んでいる微分積分学が、17世紀当時、そのままの形で研究されていたわけではありません。微分積分学も時代とともに洗練され学びやすくなっています。極限の理論なども当時とは比べ物にならないくらい整備され厳密化しました。しかし、そのもっとも基本的な考え方、積分でいえば、全内の面積や体積を小さな部分の総和として計算すること、微分でいえば、自然界のどのような変化も、ごく一部だけを取り出せば正比例と見なしてよいこと、などは全く古びることなく今も学ばれています。ここに数学という学問の、基礎学問としての重要性があります。結局、数学とは自然を解釈することそのものではなく、解釈するための基礎的な概念や形式を改めてきちんと問い直し、整備する学問なのです。その一番基礎になるのが微分積分学です。

しかし、数学は19世紀、20世紀を通じて大発展しました。そこでの数学発展の原動力は、数学的な想像力です。数学は確かに自然を解釈するための自然科学の一員(因?)として発達してきましたが、自然界にはそのままでは存在しない、もう少し広い意味での人の想像力の中の自然、無限や次元なども研究対象とするようになったのです。数学はその意味では、想像力の科学となりました。

意味と形式

数学では大切なことが2つあります。数学は記号を操る学問です。記号を操るとは広い意味での計算です。小学生たちは算数という名前の数学で最も基本的な記号操作を学びます。それは数学から始まり、数をたしたり引いたりすること、いわゆる計算、に続き、それらの計算の集大成として、分数の四則演算があります。分数を形式的にたしたり引いたり、かけたり割ったりできるようになることは小学校数学の大きな目標の1つです。これが1つ目の大切なことです。記号計算の技術が数学の想像力を支えているといってもいいでしょう。私たちは4次元や無限を直接目で見たり、手で触ったりすることはできません。しかし、記号を通して、4次元や無限を想像することができます。想像された世界は、経験を積むことによって、リアリティを獲得するようになります。ここに記号とその操作の大切な役割があります。

一方で、その計算技術には想像力による意味づけが必要なのです。数学が分かるとは、「自分が今行っている計算がどんな意味を持っているのかを理解すること」に他なりません。これがもう1つの大切なことです。記号の意味を理解し、記号操作の技術を十分に習得すること。これが数学を学ぶということです。

いま、ともすると機械的な方法を学ぶことばかりに重きが置かれ、技術を闇雲に練習するような教育観があるように思われます。「理由など考えずにそう覚えておけばいい」、確かにこのような数学教育はその場では一定の効果があるかもしれません。しかし意味も分からずに覚えた技術はすぐに剥げ落ちてしまいます。数学の学びはテストの点を取るためだけにあるのではないのです。数学教育は、人の想像力を養い鍛えるためのとても優れた場を提供しているのです。

本書は2部構成になっています。第1部では極力計算を抑えて、微分積分学という数学がどんな意味を持っているのかをお話しするようにしました。微分積分学は人の叡智の創り出した芸術作品ですが、鑑賞するためには多少の知識が必要です。それを準備することが第1部の目的でした。

一方、上で述べたとおり、微分積分学を鑑賞し楽しむためにはある程度の技術も必要なのです。高等学校ではそのもっとも基礎となる最小限の技術を学びますが、微分積分学はそのもう少し先、テイラー展開で1つのピークを迎えます。この高台に立ってみると、今まで学んできた数学が見事な景色を作っていることがわかるでしょう。第2部ではそのための基礎的な技術を養い、体力をつけるための計算について説明しました。

1部、2部を通して、読者の皆さんが微分積分学という古くて新しい数学に親しみを持ってくださることを願ってやみません。


頭にしみこむ微分積分 (瀬山先生の数学講義)

頭にしみこむ微分積分 (瀬山先生の数学講義)

  • 作者: 瀬山 士郎
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2016/05/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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