SSブログ

『アフリカの老人 ― 老いの制度と力をめぐる民族誌』九州大学出版会 [文化人類学]


アフリカの老人 ― 老いの制度と力をめぐる民族誌

アフリカの老人 ― 老いの制度と力をめぐる民族誌

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 九州大学出版会
  • 発売日: 2016/03/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


本書は、老人を主題にしてアフリカ社会を描きなおす作業、現代社会における老いのあり方を相対化する一助

アフリカといってもいろいろな地域が扱われているが、長年アフリカでフィールドワークをつづけてきた先生方による老人たちの暮し・あり方についての興味深い報告。

執筆者の先生方は、奇をてらわずに現地の報告しているが、その報告内容そのものが奇妙である。それはアフリカにおける暮し自体が奇妙であるということだ。

もっとも、奇妙と感じるのは、日本での自分たちの暮しを基準にしての話だが、その奇妙さに照らして日本を顧みると、超高齢社会の日本が、逆に奇妙に見えてくる。アンチエイジング花盛りで、年をとっても若さを維持し、美しくあるよう促され、総活躍社会の一端を担うよう期待されてあるというのは、現代日本社会における奇妙な要請であって、それを奇妙と感じずに乗っかっていくのは、本来のあり方からいって、やはり奇妙なのではないかと思えてくる。本来のあり方とは、年寄りは年寄りのままで、その存在価値があるのではないのか、あったはずではないのかということだ。

序章に、次のようにある。「これまでの民族誌には、しばしばインフォーマントとして『長老』が登場してきたが、社会の描写のなかには老人の姿は明確に見えなかった。本書は、老人を主題にしてアフリカ社会を描きなおす作業でもある。それはまた、現代社会における老いのあり方を相対化する一助となるであろう」。

当該書籍は、現代日本を映す鑑とすることもできるし、「アフリカ社会の老いを理解するうえで欠くことのできない」、冗談関係・忌避関係、祝福・呪詛、年齢体系等についての理解を得るうえでの良い助けともなる。

2016年6月15日レビュー

*********

以下、『序章』から抜粋

「本書では、老いることによって獲得され、老人であるからこそ社会に及ぼすことのできる何がしかの力を〈老いの力〉と呼ぶ」

1章:「アフリカ社会の老いを理解するうえで欠くことのできない、冗談関係と忌避関係、祝福と呪詛、年齢体系が、現代社会はもとより人類社会の未来を想像するために必要な示唆が含まれること」「(報告する)人類学者自身が老いることによって手に入れる視点が、人類学の方法に再考を促すものにもなりうること」が示される。

「2章と3章では、主に冗談関係、祝福と呪詛という側面から〈老いの力〉について焦点を当てている」

「4、5、6章は、年齢体系と関係する〈老いの力〉を扱う」「アフリカには年齢体系を高度に発達させた社会が見られる。年齢体系とは、加齢という連続するプロセスを意味のある形に切り分ける制度である。この制度によって人間は人生を形あるものとして経験することが可能になる。

「7章、ケニアの一夫多妻制社会のルオにおける男女の老いについて明らかに」「無数の妻と子どもを持つ有名カリスマ老人」と「盲目の一人身の老人から、それぞれの老いを描き出」す。

「8章、来るべきアフリカの人口高齢化のメカニズムとその議論について明らかにする。そのうえで、本書で語られてきたアフリカの人々の老いが、今後、社会保障や医療といった近代的国家制度とどのように関係していくのか、民俗誌的アプローチの可能性を示す」



信念の呪縛―ケニア海岸地方ドゥルマ社会における妖術の民族誌

信念の呪縛―ケニア海岸地方ドゥルマ社会における妖術の民族誌

  • 作者: 浜本 満
  • 出版社/メーカー: 九州大学出版会
  • 発売日: 2014/01
  • メディア: 単行本



nice!(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

トラックバック 0