『昔ばなし大学ハンドブック』小澤俊夫著 NPO読書サポート発行 [民俗学]
「昔ばなし大学」のエッセンスを伝える本
著者は「メルヒェンと呼ばれる口承伝承による昔話の研究(を)特に専門」とするドイツ文学者(ウィキペディア)。
当該書籍は、著者が開設した講座「昔ばなし大学」のエッセンスを伝える本。昔ばなしの内容・メッセージそのものよりも、その語り口、語る方法に着目した書籍。
《昔ばなし大学の目的とするところは、「学ぶ人が、昔話本や昔話絵本の良し悪しを見分ける耳と目を養うこと」にあり》、そのためには《そもそも昔話とは何か》、《そして特に、昔話の語り口は本来いかなるものなのか、という具体的な問題に取り組まなければならない》と、著者は述べる。そのようにして吟味すると、《グリム童話は常に人気がありながら、ディズニー絵本などによって、極めて歪められている》ことに気づくことになる。元来伝えられるべきことを伝えそこなっていることを悟ることになる。
語り伝えられてきた昔話の個々の「語り口」を調べていくと、そこにはある法則性が見出される。著者は、スイスのマックス・リュティの理論は、日本の昔ばなしにも適用できるという。ヨーロッパの昔話も日本の昔話も共通するものがあるということだ。それには、「一次元性」「平面性」「抽象性」「数の固定性」「言い回しの固定性」「孤立性と普遍的結合の可能性」「純化と含世界性」などがある。そのように記すとたいへん難しそうだが、たいへん丁寧にやさしく繰り返し解説されている。その際、具体的に、グリム童話の『白雪姫』『ホレばあさん』などが用いられる。
長く読み継がれ語り継がれる昔ばなしのメッセージ・内容が、名称を変えて広く諸国に見出されることについては、ユングの「集合的無意識」や「元型」との関連で論じられた書籍を見出すことができるが、その「語り口」の共通性に着目した本は(当方にとって)はじめてで、興味深く読むことができた。昔話を子どもに語り聞かせることを願う方や昔ばなしを発掘し、再話しようとする方にとってだけでなく、口承文藝一般に興味ある方にとっても有用だと思う。
2016年6月8日に日本でレビュー
日本人の心を解く――夢・神話・物語の深層へ (岩波現代全書)
- 作者: 河合 隼雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/06/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
2023-04-28 05:05
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