『図像学入門 疑問符で読む日本美術』山本陽子著 勉誠出版 [アート]
めっぽうおもしろい日本美術に特化した『図像学入門』書
日本美術に特化した『図像学入門』書です。
図像学とは、目の前にある美術作品等(特に、「時が経って文化や生活環境が変わ」り、「そのままでは判らなくな」った作品)が「どういう意味(だった)かを読み解く」学問。
国宝だ、重要無形文化財だ、「めったに見られないものだから見てお」けなどと言われ、しかつめらしい顔して眺めても、美しくも感じられず、感動的でもない作品はあるもの。それでも、「説明を聞いて意味がわかれば、千年前の作品もぐんと身近になるし、ものによっては感動してしまったりする」。
要するに、作品と鑑賞者の仲立ちをして、その意味がわかるよう助けるのが、図像学(イコノグラフィー)の目的とするところのようです。(著者「まえがき」と「あとがき」からそのように読み取れます)。
ところが、ときに、「入門書」が「入門」の役目をはたさず、仲立ちをするどころか、さまたげとなることがあります。しかし、この本は、さまたげとなるどころか、おおいに役目をはたすだけでなく、おまけにめっぽうおもしろい。著者の人柄によるものでしょうか、それとも、面白くしようと努めてくださった賜物でしょうか。「観音にはひげがある?」などの目次を見れば、おおよそ感じがつかめることと思いますが・・・。
具体的には、たとえば、仏教美術に関し、『如来』についての記述に「後ろに如来と付くのは悟りを開いた人を意味し、仏教の中では最も格が高い」の説明があります。そこに「56億7千万年の瞑想後に悟りを開いて弥勒如来になると予定される」弥勒菩薩のことが出てくるのですが、その脚注には、「だから弥勒菩薩は頬杖をついた姿に表され、現在はずっと『考え中』のままなのである」とあります。図像がイメージされ、おもわず笑ってしまいました。
書籍は、疑問に答えるスタイルで、一つの項目に見開き4ページ(うち図像1ページ)を利用して、構成されています。日本に生れ、日本国籍・日本在住の日本人でありながら、日本美術を解説なしには読み解くことができなくなっているという一抹のさびしさも感じましたが、しかし、それ以上に、自分の足元の文化を再確認するうえでたいへん参考になりました。
2016年1月7日レビュー
図像学入門 荒俣宏コレクション2 目玉の思想と美学 (荒俣宏コレクション2) (集英社文庫)
- 作者: 荒俣 宏
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1998/04/16
- メディア: 文庫
目次
まえがき 日本美術の新たな楽しみ方──美しいと思えなくても感動できなくても──
第1章 釈迦の生涯──仏像の基本
どこまでホント? 誕生──花祭りの始まり
こんなみじめでいいの? 出山釈迦像──てっぺんハゲの釈迦
こいつら何してるの? 降魔成道──さまざまな魔物たち
ルール違反じゃない? 釈迦如来──美しすぎる釈迦像
死んだ釈迦の何が面白い? 涅槃図──悲しい絵の楽しみ方
第2章 仏像の種類──4つのタイプ
観音は女じゃないの? 菩薩──観音のヒゲ
えらいのは釈迦だけじゃないの? 如来──釈迦のほかにもいろいろ
女だって戦士だっているじゃないか! 天部──「その他おおぜい」
どうしてホトケが悪ガキに? 明王──戦闘モードに変身!
第3章 曼荼羅──密教世界の地図
なぜ密教の世界地図が二つあるの? 両界曼荼羅──日本の密教で基本とされる曼荼羅
これでも曼荼羅か? 別尊曼荼羅──雨乞い修法専用の曼荼羅
第4章 六道輪廻と浄土――人は死んだらどこへゆく?
浄土を実感するためには? 当麻曼荼羅──仮想現実の浄土
なぜ阿弥陀はキンキラキンか? 阿弥陀来迎図──実用品の絵
どうしてこんなにおぞましい? 六道絵──見たくないものを描く
それにしても悪趣味じゃない? 地獄絵──地獄巡りを楽しむまでに
第5章 神々のすがた
姿のない神をどう表すか? 神像──神を人の姿で表すいいわけ
どうして風景を拝むのか? 宮曼荼羅──行ったつもりで拝むために
第6章 人のかたち――肖像と似会(にせえ)
聖徳太子はスーパーマン? 聖徳太子──日本の釈迦
怖いならどうして祀る? 天神像──本当は怖い天神さま
似顔絵描いてどこが悪い? 似絵──ひとりの天才が美術史を変える
不細工な顔のどこがイイ? 祖師像──礼拝対象としての肖像
この乞食は誰? 道釈人物画──話を知らなきゃ判らない
第7章 絵巻物――物語を絵にする
女絵とは何か? 絵巻のジャンル──絵巻とマンガ
なぜあんな顔? 引目鉤鼻──女絵のお約束
なぜ右から左へか? 連続式絵巻──スクロールする絵巻
どうすれば時間を描けるか? 異時同図法──絵巻の時間を操作する
絵巻はマンガか? 動きの線と声の線──線のチカラ
絵巻のセリフはどうするか? 絵の中の言葉──画中詞と吹き出し
鳥獣戯画は何のため? 鳥獣戯画── 戯(ざ)れ絵・嗚呼(おこ)絵
どうして付喪神が絵巻に? 百鬼夜行絵巻──妖怪の作り方
江戸時代の絵巻はなぜつまらない? 江戸時代の絵巻──嫁入本の制約
第8章 山水画と花鳥画――神仏でも人でもないもの
なんで色を塗らない? 水墨山水画──元祖3D風景画
春夏秋冬が一度にある! 四季絵──ありえない理想世界
戦国大名になぜ必要? 洛中洛外図──夢の都
なぜド派手? 金碧障壁画──ハッタリの美術
こんなものどこがすごい? 引用と構図──脇役を主役に
主人公はどこ? 絵画と工芸──留守模様
下手な絵がなんでイイ? 文人画──中国かぶれのヘタウマ
第9章 浮世絵
美人画はどのようにお求めやすくなったか? 浮世絵の始まり──彦根屏風から浮世絵まで
誰のおかげでカラー化した? 東錦絵──絵暦オタクのチカラ
美女のタイプは不変か? 美人画──浮世絵とコマーシャリズム
役者絵はどこまで似ている? 役者絵──写楽ばかりでなく
ゴッホはこの絵のどこが好き? 風景版画──遠近法とジャポニズム
武者絵はなぜあんな顔? 武者絵──ヘラクレスの長い旅
第10章 西洋絵画と日本
写生画のどこが写実でないか? 写生画──日本画の背景
なぜ鮭か? 材質感──日本の絵になかったもの
裸体を描いてどこが悪い? 裸体画──朝妝騒動
意味がわからなきゃだめ? 趣向──現代美術を身近にする呪文
あとがき 奥の手──私の好きな一点──
転載図版一覧