*渡部昇一著 『青春の読書』を読んだわけ、そして 読んでみて [自伝・伝記]
- 作者: 渡部昇一
- 出版社/メーカー: ワック
- 発売日: 2015/05/22
- メディア: 単行本
英語の副題 “Origin of Shoichi Watanabe”の方が、よりふさわしい
読書を愛し、書物を愛し、熱く語ることができる人への尊敬の念から当該書籍を手にしました。
その点で、著者と同じく厖大な蔵書をもち、著者と同じ（カトリック教会と縁の深い）上智大学で教育を受けた井上ひさし氏（故人）が、大江健三郎氏らと共に憲法9条を守る会（『九条の会』）の呼びかけ人となったのに対して、著者は大江氏を告発して国賊扱いするかのような著書もある谷沢永一氏（故人）とも親しく、その他いわゆる「右」寄りと称される方々に寄り添う風があり、その意見、色合いはたいへん異なります。ある意味、戯作者然とした井上ひさし氏より、はるかにずっとハイブロウな（大学教授、しかも英語学専攻という）社会的立場にありながら、（そういう人たちはどちらかといえば「左」に行く傾向がありますが）左ではなく、右に寄る著者に対して不思議の感をもち興味深々であったというのも本書を手にした理由です。
さらに、理由を付加するならば、先の戦争で徴兵され戦地に出向いて実戦を経験した人（たとえば、大岡昇平）と、徴兵を免れあるいは免除されて戦後に生き伸びた人（たとえば三島由紀夫）と、戦争中子供（小・中学生）時代をすごした人（たとえば野坂昭如）とでは、政治をはじめもろもろの事象への意識が異なります。特に、先ごろ亡くなった野坂昭如と著者は同年齢（著者は昭和5年生まれ）ですが、終始反戦を看板にしてきたかの印象のある野坂と比べ、やはり著者は異色です。
当該書籍を読むなら、「渡部昇一」という特異な人間はどのような生い立ち、育ちをして、人間形成をしてきたのだろうという疑問の答えが得られるように思いました。著者の「青春」時代の「読書」から人間形成の秘密を知ることができるように思ったわけです。
まさにその点で当該書籍は絶好のモノでした。『青春の読書』の題が付されていますが、表紙にある英語の副題 “Origin of Shoichi Watanabe”の方が、よりふさわしく感じます。直訳すれば『ワタナベショウイチの起源』というところなのでしょうが、当方は、『ワタナベショウイチの造り方』と意訳したい気持ちです。もっとも材料がそろえばデキルというものではありません。恩書、恩師、それに運命ともいうべき「偶然」と、強靭な意志が関係・作用する必要があります。なかなかそう簡単に“Shoichi Watanabe”はデキルものではありません。
著者に対し、不思議な印象を持つ方、著者と意見を一にしない方も、本書は参考にするところ多であり大であるように思います。その意見の根拠とおぼしきもの、発生の源にあるものを把握することができるように思うからです。
蛇足ながら、そのようにしてなお、意見が相違するにしても、ヴォルテール（実際は、S・G・タレンテイア）に倣って、「あなたの言っていることに私は不賛成だが、あなたがそれを言う権利については死を賭してもこれを守る」という見方は保守したく思います。
2016年1月3日レビュー
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http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2015-01-28
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