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『樅の木は残った』 山本周五郎著 [文学・評論]


樅の木は残った 全巻セット

樅の木は残った 全巻セット

  • 出版社/メーカー: オリオンブックス
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: Kindle版



2020-02-17

山本周五郎の代表作で、むかしむかしにNHK大河ドラマとして放映された『樅の木は残った』を読了した。ドラマのほうは原田甲斐を平幹二朗が演じ、女優では栗原小巻が印象的であったことくらいしか覚えていない。このたびは(と、いっても初めて読んだのだが)kindle版が 0円で読めたので読み始めたのだ。

樅の木は原田甲斐の象徴なのだろう。孤独な人として描かれている。その生い立ちや立場上、そのようにふるまうしかなかったのだ。実際は、人間味があり、身分制度の厳しかった時代に、分けへだてなく山家育ちのおんなにも接し、慕われている。そんな原田が、仙台藩の存亡をかけた孤独な戦いを演じることになる。敵のふところに飛び込んで懐柔し操作する役回りである。当然ながら味方の多くからは裏切り者と見なされる。しかし、原田は知力を尽くしてそれに当たる。多くの人物が登場するが、みな樅の木を引き立てるかのようだ。雑木のなかに屹立するかに描かれる原田はあんまりにもかっこいい。

最後は斬り殺される。「評定」の場で、乱心者として死ぬ。原田はその役回りを自発的に選ぶ。ふだんから取り乱したりすることなく、乱心から最も遠く思われる人が、「乱心者」の汚名をみずから負う。しかし、その機転で「お家」は救われる。忍従と機転の物語である。

山本周五郎は、それまで歴史上の悪人とされてきた人物の評価をひっくり返してきたと聞く。原田甲斐もその一人だという。見事なちから業である。

「日本のドストエフスキー」山本周五郎のこと
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2014-08-12


正雪記(上)新装版 (新潮文庫)

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  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/01/13
  • メディア: 文庫



由比正雪 (人物叢書)

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  • 作者: 進士 慶幹
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 1986/04/01
  • メディア: 単行本



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