『アメリカ先住民を知るための62章』 阿部 珠理編著 明石書店 [文化人類学]
アメリカ先住民を知るための62章 (エリア・スタディーズ149)
- 作者: 阿部 珠理
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2016/09/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
明石書店のエリア・スタディーズ・シリーズをはじめて手にした。世界各地の地理・歴史・文化を扱った観光ガイドのように表紙カバーから連想していたが、たいへん学術的な内容に驚く。
本書の表紙から、“南北”「アメリカ先住民」について記されたものと思ったが、それもハズレタ。もっぱら北アメリカの「先住民」(インディアン)を取り扱っている。しかし、『はじめに』をみると、「先住民」と一括りにすること自体に無理があると記されている。言語、文化が異なる多数の部族社会からなり、現在も200以上の言語が用いられ、連邦から承認を受けた部族は、悠に500を越えるからだ。
それでも、《北アメリカ大陸での西欧列強の植民地事業から、アメリカ合衆国の建国を経て現代にいたるまで、彼らが被害者として被った植民地主義の歴史的体験は共通している。本書では、そのような共通のベース部分に、部族文化のような固有な部分を加え、総じてアメリカ先住民族の全体像がより広く、かつ深く紹介できるように努めた》と、ある。
『Ⅰ部 連邦ーーインディアン関係』では、過去から現在にいたる連邦インディアン政策の重要部分、またそれら政策へのインディアン社会の対応が項目化されている。
『Ⅱ部 現代社会問題』では、インディアン社会の今日の現実が詳らかにされ、インディアン社会共通の負の体験から導きだされる経済や健康といった深刻な社会問題、インディアン社会の民族再生に向けての取り組み、部族民認定等の部族社会の今日的課題、戦跡保存や博物館設置のための合衆国との交渉など、先住民が直面する現代的イシューが取り扱われる。
『Ⅲ部 文化と宗教」では、信仰心に支えられ、現在も力強く実践され、先住民の「代表的」儀式と呼びうるものが紹介されている。メディスンマン、ベルダーシュ、トリックスター、パウワウ、インディアンアートなど興味深い。
『Ⅳ部 人物』では、歴史的人物、インディアン社会の著名人、インディアン社会を描いた白人たちが紹介されている。巻末には『インディアン史 略年表』が付されている。
62の各項は4ページほどで、全体に網羅的だが、たしかに「アメリカ先住民族の全体像」を把握できるように思う。