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『人類学者への道』川田 順造著  青土社 [文化人類学]


人類学者への道

人類学者への道

  • 作者: 川田 順造
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2016/09
  • メディア: 単行本


「ゴーゴリやフェリー二に、私は共感してしまう」

巻末にある『初出一覧』を見ると、本書のために「書下ろし」たものは、巻頭のアフリカに関するエッセイ『異文化とつきあう モシ王国と私 1』『懐かしい異郷 モシ王国と私 2』『懐かしい異郷を再訪する エピローグ』と自分の出自について記した『エキゾチックな故郷』のみで、あとは『月刊アフリカ』『朝日ジャーナル』『神奈川大学評論』等に掲載既出のものである。

評者ははじめて川田さんの著作を読む機会を得たが、アフリカの異文化がもたらす興趣だけでなく、思考を刺激し五感に訴えかけてくる文章にも惹きつけられた。かつて、「日本エッセイスト・クラブ賞」を受けているということだが、なるほどと思う。

書籍タイトルは『人類学者への道』、80の齢を越した文化人類学者は、過去を振り返ってこう記す。《十代のころから愛読していたゴーゴリの小説が、『ディカーニカ近郷夜話』や『鼻』も含めて、もしかすると私を文化人類学に向わせた一番深い誘引になっていたのかもしれない。// 『方法序説』の第一部で、青年デカルトが書を捨て旅に出るところも、私には魅力があった。だが、「世間という偉大な実物」の中に自分を投げこみ、「さまざまな生活の人たちと交わり、さまざまな経験をつもう」とする、この永遠に新しい “旅立ち” の思想を語るデカルトと、その後疑う主体としての「私」にひきこもり、演繹にすがって思考を重ねるデカルトとの間の乖離にも私は驚かされる。旅でめぐりあった人たちは、デカルトにとって一体何だったのだろうか。// 私にとってデカルト以上に、ゴーゴリやフェリー二は、文学や映画を表現手段としているが、人類学者の目と心を持っているように思われる。// フェリー二の 『アマルコルド』 や 『サテュリコン』 や 『道化師』 を観ながら、私は何度 「これぞ人類学・・・」と、映画という表現手段に羨望を感じながら思ったことか。特に、他者とのかかわりで、表現する主体としての自分も一個の他者としてユーモラスに眺める感覚をもつ点で、ゴーゴリやフェリー二に、私は共感してしまう(「異文化とつきあう」)》。本書は、そのような著者の人類学者としての歩みをよく知ることのできる書籍であるように思う。

2016年12月1日にレビュー

文化の三角測量―川田順造講演集

文化の三角測量―川田順造講演集

  • 作者: 川田 順造
  • 出版社/メーカー: 人文書院
  • 発売日: 2008/10/15
  • メディア: 単行本



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