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『ディスレクシア入門』 加藤醇子編集 日本評論社 [教育・学び]


ディスレクシア入門

ディスレクシア入門

  • 作者:  
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: 単行本


日本におけるディスレクシアに関する「共通言語」を提供する書籍・入門書

編者は、『はじめにーー文字はことばの伝達手段』で、ディスレクシアについて、本書出版の意図について次のように記している。《知的に遅れがなく、ことばの理解も普通なのに、読み書き、つまりは、文字が苦手なことを「ディスレクシア=読み書きのLD(Learning Disabilities:学習障害)」といいます。(本書では「読み書き障害」「発達性ディスレクシア」も含め、基本的に「ディスレクシア」という用語に統一しています)》 中略 《本書では、そのような困難さをもつ子どもを早く見つけて、その困難さのメカニズムを知り、対応方法を考えるために、他職種の専門家の知恵を集めました。ディスレクシアの子どもの具体的な姿、そして支援の実際を伝えるために、たくさんの症例・事例も本書には掲載しています・・》《すでに大学入試センターでは、ディスレクシアをはじめとしたLDの困難さに対しても配慮的申請ができるようになっていますし、2016年4月からは合理的配慮が法制化されました。学校の先生方もそのような子どもたちに適切な対応をしなければならなくなったのです。教育関係者はもちろんのこと、医師、臨床心理士、言語聴覚士などの専門家、そしてディスレクシアの子どもをもつ保護者の共通言語として、この入門書を活用していただけるよう願っています》。

評者は、本書をとおして、読み書きにつまづいている方たちのそのつまづきを通して、読み・書き・読解のメカニズムを知り、みずからの能力を改善・伸張できるのではないかとの動機で読み始めた。実際、その点で参考になる情報を得ることもできた。だが、それよりも、身近なところで、文字を苦手とし、読み書きに苦労し、学校で職場で苦闘している方たちの個別の事例を知り、同情を禁じえなくなった。一見「フツウ」に見られるがために、周囲から誤解され、多大の努力をしているにも関わらず「怠慢」と見なされなどしてきたのである。興味本位に読み始めた動機をうしろめたく感じさえした。

本書には、彼ら・彼女たちへの「合理的配慮」についての記載がある。その関連法(障害者差別解消法)が成立した今、配慮に欠けるなら「差別」したことになるというものだ。その詳しい意味については13章で扱われている。WHOの「国際障害者分類試案(ICIDH)」の障害観(障害を機能障害・能力障害・社会的不利の3つの段階で考えるモデル)と「国際生活機能分類(ICF)」モデル(《障害を個人の問題と機械的にとらえるのではなく、「人間全体をみながら、個別の特性や事情をもとらえつつ、活動や社会参加・人生参加を可能にしていく」ことを目指す》)との関係から説明されていく。具体的にどのように示すことができるかも示される。

『はじめに』にあるように、本書(上記イメージ書籍)は、“日本における”ディスレクシアについての「共通言語」(を提供する書籍・入門書)となりうるように思う。

2016年9月26日にレビュー

読み書き障害の克服―ディスレクシア入門

読み書き障害の克服―ディスレクシア入門

  • 作者: Bev´e Hornsby
  • 出版社/メーカー: 協同医書出版社
  • 発売日: 1995/07
  • メディア: 単行本



ディスレクシア入門

ディスレクシア入門

  • 作者:  
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: 単行本


以下、上記書籍からの引用

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では、こんなケースではどうでしょう。

昨今、医学の進歩によりがんと診断された後も長く生きる人はたくさんいます。手術をしたり化学療法をしても、健康状態を加味するなどの条件が整えば活動したり参加したりすることは可能です。しかし、企業側が「がん=死ぬ病」ととらえて復職させない、あるいは、治ったなら今までどおりに働いてもらうとして過重労働を強いる、化学療法の際に休もうとすると嫌味を言ったりいやがらせをしたりなどがあれば・・・?これも、「環境因子」が整わず、「活動制限」「参加制限」され、結果的にICFモデルでいう“障害” をもつことに当たるのです。

要するに、2001年のICFモデル導入以降、障害観は「病気や外傷を詳しく分類する」という医学的なモデルから、「ある健康状態にある人の精神機能や運動機能、歩行や家事等の活動、就労や趣味等への参加の状態を背景因子との関わりで把握する」という社会モデルに大きく考え方が変わったわけです。(第13章p201-202)

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高校生Jさんの事例の「まとめ」から

Jさんの読み書きの状態は、決して軽くはありません。しかし、クリニックを初めて受診した時も、本人からは「とても困っていて大変です」という訴えはなく、必要な時は電子辞書で調べたりしながら、授業も何とかついていけると話していました。このような心持ちでいられる最大の理由は、保護者の広く大きく、また深い支えだと思います。「発達障害のある人の自己実現」に関するシンポジウムにおいても、幼児期から成人期まで共通して大切なことは「一番身近な人から認められること」「周囲の人が子どものよい面をとらえて肯定的に受け止めること」「ほめられて、子ども自身が自尊感情を高めること」という発表がありました。(石坂、2016)。この事例からもディスレクシアがあったとしても、成長してから個性を発揮していくには、小さい頃からの周囲のサポートがとても大切であることを私たちは学ぶことができます。(第7章 p138)

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第1章では、国際ディスレクシア協会(IDA)によるディスレクシアの定義をもとに、解説がなされる。その定義は以下のようなもの。

「ディスレクシアは神経学的な原因による特異的な学習障害である。その特徴は、正確かつ、あるいは流暢に単語を認識することの困難さ、つづりの稚拙さ、単語を音声に変換する(デコーディングの)弱さにある。こうした困難さは、主に他の認知能力や学校での効果的指導からは予測しえない言語の音韻的な側面に関する弱さが原因である。二次的に読解の問題を引き起こしたり、読みの経験が少なくなったりすることで、語彙や予備知識の発達を阻害することが起こりうる」(翻訳は筆者:原惠子 による) (IDA、2002)

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「基本専門用語集」で取り上げられている用語

デコーディング(ディコーディング)/ 音韻意識(音韻認識)/ 単語認識/ 音節とモーラ/ 音素/ 書記素/ 正字法・正書法/ ワードアタック/ 呼称速度の検査/ 流暢性/ 自動性/ サイトワードと視覚認知/ キーワード法/ 多感覚法/ RTI




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