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『鶴見俊輔 (言視舎 評伝選)』 村瀬 学著 [自伝・伝記]


鶴見俊輔 (言視舎 評伝選)

鶴見俊輔 (言視舎 評伝選)

  • 作者: 村瀬 学
  • 出版社/メーカー: 言視舎
  • 発売日: 2016/05/18
  • メディア: 単行本


鶴見の思想を批判、継承する部分に注目したい

心理療法家:河合隼雄は、かつて鶴見との対談後、「短時間のお話のなかで、私は一人の個人の歩みのなかに、明治から現在にかけての日本の歩みを見る思いがして、ひたすら感動していた。鶴見少年が日本の幹部候補生であるという母親の直観は、やはり間違ってはいなかったのだ。(『あなたが子どもだったころ』 楡出版 1991)」と記した。

本書は、その「明治から・・の日本」を背負って歩んだかのような人物で、戦後を代表する思想家でもあり、「日本の幹部候補生」とも見なされた鶴見俊輔の評伝である。しかし、ただの伝記ではない。鶴見の思想を批判・継承する内容を多分に含んでいる。

本書のキーワードは「貴種」と「相互性」。鶴見の年譜と既刊書を順に追いつつ、それらキーワードをもとにして、著者は故人の人生と思想を読者の眼前に織り成していく。織り成されて読者の前に立ち現れる鶴見の姿は、本人もその貴種性ゆえに、見ることのできなかった(あるいは、不明瞭であった)モノをも示す肖像となっている。また、鶴見の関心・思想も整理され明瞭に語られている。(もっとも、明瞭となった分だけ、語り残されている部分も多いということもあるようにも思うが、すくなくとも、鶴見の全体を、簡潔明瞭に語るのに「貴種」を核とした著者の炯眼は、すばらしい)。

著者:村瀬学の本をひとつだけ過去に読んだ。それは、『児童文学はどこまで闇を描けるか 上野瞭の場所から』(JICC出版局 1992)。たいへん興味深い論考で、印象に残っていた。それで、期待して(さらには、著者を児童文学の専門家のように思っていたので、驚きつつ)手にしたが、期待以上であった。本書をとおし、鶴見の全体像を知るだけでなく、著者の論述のあざやかさ、繋がらないように思えるものを繋げていく力量を知ることもできよう。

故人となった今では叶わないことだが、読後、書評に達者であった鶴見さんに、本書を評させてみたいと思った。どんな反応をするだろう。(本書巻頭写真にある)貴種性を破壊する「鉄腕アトム」のような頭髪をかきむしりながら、「よく書いたねえ」と言うか、あるいは眼をむきながら、ハーバード時代に教えを受けたホワイトヘッドのように「Exactness is a fake.(精密さなんて作り物だ)と言うか・・・。

いずれにしろ、鶴見の思想を批判、継承する部分に大いに注目したい。

2016年9月15日にレビュー

現代思想 2015年10月臨時増刊号 総特集◎鶴見俊輔

現代思想 2015年10月臨時増刊号 総特集◎鶴見俊輔

  • 作者: 南伸坊
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2015/09/14
  • メディア: ムック



児童文学はどこまで闇を描けるか―上野瞭の場所から

児童文学はどこまで闇を描けるか―上野瞭の場所から

  • 作者: 村瀬 学
  • 出版社/メーカー: JICC出版局
  • 発売日: 1992/02
  • メディア: ハードカバー


名古屋大・女子による殺人事件(エロトフォノフィリアによるものか・・)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2015-01-30

初期心的現象の世界―理解のおくれの本質を考える (洋泉社MC新書)

初期心的現象の世界―理解のおくれの本質を考える (洋泉社MC新書)

  • 作者: 村瀬 学
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 新書



ひげよ、さらば (理論社の大長編シリーズ)

ひげよ、さらば (理論社の大長編シリーズ)

  • 作者: 上野 瞭
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 1982/03
  • メディア: 単行本



 ★目次
Ⅰ 「貴種」を体験する
第1章 幼年期――「貴種」の芽ばえ(幼児期の語りーー後藤新平の屋敷にて/ 「母の折檻」がはじまる/ 「おなじ母のもとで」/ 後藤新平の「お妾さん」と呼ばれた「河崎きみ」の存在/ 後藤新平についてーー「公共の顔」と「私生活の顔」)
第2章 少年期――「貴種」のおごり、「悪人」への親和(少年時代の語り/ 鶴見俊輔の回想と河崎充代の伝記の違い/ 後藤新平の屋敷について/ 映画『母』について/ 少年期の読書体験/ 「鶴見少年悪人説」の語り/ 鶴見少年の読書体験/ 性への関心・放校・自殺未遂ーー高学年へ)
第3章 クロポトキンとの出会い・「貴種」への恐れーー『再読』を再読する(三つの汚れたピン/ 『カラマーゾフの兄弟』について/ トルストイの『人にはどれほどの土地がいるのか』について/ クロポトキンの『ある革命家の手記』について)
Ⅱ アメリカにて
第4章 アメリカで(留学までのいきさつ/ 父・鶴見祐輔の支援/ 英語が突然にわかり始め、日本語を忘れるーーコンコードの町で/ 「プラグマティズム」に出会う/ なぜ鶴見俊輔は「相互作用」に関心を示したのか/ 「貴種」が見えないアメリカ)
第5章 戦時中の体験(アメリカで逮捕と日米交換船での帰国/ 交換船の理念/ ジャワ島に配属ーー鶴見俊輔の戦争体験/ ジャワ島の体験と「戦争のくれた字引き」との異同/ 「慰安婦」の問題/ 創作なのか事実なのか/ ジャワ島での殺人事件ーー「暗号解読」と「スパイ」発見の仕事から/ 「暗号解読」に記号論の恐ろしさを知る)
Ⅲ 日本からの出発 
第6章 「日本語を失う」という体験からーーわかりやすい言葉を求めて(英語から日本語へ/ わかりやすい日本語を求めて/ 「言葉のお守り的使用法について」/ 「哲学の言語」への批判/ 三浦つとむの『哲学入門』を最大級に褒める/ プラグマティズムと弁証法/ 父の援助と本の雑誌の出版)
第7章 「かるた」とは何かーー知恵を生む仕掛けの探索(「かるた」への関心/ カフカの小品集のような「かるた」/ 貴種と思春期と遊離体験/ 相互性としての「かるた」--記憶術の仕掛け/ 確実なものを発見する仕組み/ 「遊びかるた」と「ことわざ」/ 「あいうえお」から「いろはにほへと」へ/ 「和歌」の音数律と「ひらがな」について/ 「和歌」と「天皇」/ 「和歌」と「君が代」と鶴見俊輔/ 「苔」について/ 「反転」とことわざーー「いろはだとえ」のもう一つの問題)
第8章 最も大事な思想――「日常性」の発見へ(「反転」と「日常性」/ 日常性ーー「周期性の波」と「相互性の波」の発見と利用/ なぜ『家の神』を書いたのか)
Ⅳ 六〇年代思考  
第9章 プラグマティズムーー「相互主義」の自覚へ(「プラグマティズム」という用語のわからなさ/ バースはカントのどこを学んでいたのか/ カントの最も大事な部分/ 「マチガイ主義」としてのプラグマティズム/ 折衷主義としてのプラグマティズム/ 晩年の鶴見自身による「プラグマティズム」の弱点の指摘/ プラグマティズムの二つの分野ーー記号論批判)
第10章 『限界芸術論』考(「限界芸術」という用語のわかりにくさ/ 「限界芸術」と呼ばなくても/ 「大衆芸術」と呼ばれる「相互性」についてーー漫才・流行歌・大衆小説/ なぜ「記号」なのかーー『限界芸術論』の一つの批判)
第11章 天皇制・転向・戦争責任の問題へ(「戦争体験」が「天皇体験」としてあったことについて/ 一人ひとりの「天皇体験」/ 「らくがき」にできない「天皇」/ 「国土拡張」を歓迎する民衆ーー「国土としての天皇」と「絶対命令者としての天皇」/ 戦争責任の問題点/ 「転向」の問題への二つの動機/ 鶴見俊輔はいったい父親のどこが許せなかったのか/ 石橋湛山の「小日本論」のもつ位置/ 石橋湛山と鶴見祐輔/ 「転向論」へ)
Ⅴ 人生の「折り返し」から
第12章 45歳からの「母」の語りーー改めて鶴見俊輔の「二人の母」を考える(くりかえされる「母の語り」/ いつから「母の悪口」を言いはじめたのか/ 「退行計画」を読み解くーーパート1からパート2へ/ パート3からパート4へ/ 「貴種を折る」体験としての母/ 「貴種」とは何か)
第13章 「うつ」に苦しむ鶴見俊輔(「私には三つの『うつ病」の時期があった」と語られる問題/ 中井久夫『看護のための精神医学第2版』から「うつ」を調べる/ 「躁」のときに/ 「うつ」のときに/ 「過去の話」をすると落ち着く/ 「うつ」の克服と日常性の取り戻し)
第14章 最後の「問い」へーー3・11、原発事故を受けて(原子爆弾の投下のこと/ 「転向論」の問題点/ 見えないアメリカの貴種/ アメリカの「闇」へ/ 「見える貴種」から「見えない貴種」へ/ 鶴見俊輔から引き継ぐもの)

自著・参考文献一覧/ あとがき
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