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*数学する人生 岡潔 』 森田真生編 [数学]


数学する人生

数学する人生

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/02/18
  • メディア: 単行本



「試行錯誤する岡 “とともに” 考えること」を潔しとするか?

岡潔は、吉川英治、佐藤春夫らとともに1960年に文化勲章を受けた世界的数学者。当該書籍は、彼の思想を次の世代に継承していくために、編まれたもの。編著者は、森田真生。京大理学部数学科を卒業した在野の「独立研究者」。

岡潔は、映画『好人好日』(1960年)のモデルとされている。そこでは数学以外に関心をもたない変人として扱われている。当方はもっぱらソチラの関心から読み始めたのだが、その点で期待を裏切らなかったのは、岡潔夫人による『文化勲章騒動記』。しかし、それは、本書全体の意図からいえば、ほんの瑣末な部分で、なんといっても目玉は、最晩年、京都産業大での最終講義。録音されたものを遺族の助けを得ながら編者がまとめた『懐かしさと喜びの自然学』。


好人好日  SYK-116 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 松竹映画 コアラブックス
  • メディア: DVD



世界的数学者、文化勲章受賞者であることを知らずに読まされたなら、一見して「なにをたわ言を・・」と放り出しかねない内容陳述。というのは、言葉の用い方が独特なのである。そして次のような自信過剰とも思える論調。「自分という葉は、大宇宙という一本の幹の、人類という一つの大きな枝の、日本人という小枝の先に芽生えた葉です。これは本来、常識です。この常識を「心身脱落」ともいいます。心身脱落というのは道元禅師の言葉ですが、何も悟りというほどの大袈裟なものではないのです」。「大宇宙は一つの心なのです。情だといってもよろしい。その情の二つの元素は、懐かしさと喜びです。春の野を見てご覧なさい。花が咲いて、蝶が舞っているでしょう。どうして蝶が花のあることがわかって、そこへ来て舞うのでしょうか。/花が咲くということは、花が咲くという心、つまり情緒が形となって現れるということです。その花の情緒に蝶が舞い、蝶の心に花が笑む。情には情がわかるのです。情の世界に大小遠近彼此の別はないから、どんなに離れていてもわかり合うのです」。

しかし、じっくり読めばわからないことはない。というか直観的に首肯できることなのだが、論理的に筋道を辿ろうとすると難解に思えるということだと思う。それで、肝心なのは、編者が述べるように「読者は、試行錯誤する岡“とともに”考えることを要求される」ことを良しとできるかどうか、そして、そこに「岡のテキストの醍醐味がある」ことを味わうだけの辛抱強さがあるかどうかだ。

小林秀雄は、岡との対談で、あなたの「お考えは、理論とは言えない、一つのヴィジョンですね」としみじみ語ったそうである。そのヴィジョンに編者は「人生が変わるほどの衝撃を受け」、「実際、岡のエッセイに出会ったことをきっかけとして、文系から数学の道へ転向し」たという。

要するに、岡の提唱するヴィジョン「新しい宇宙像と人間像」に編著者はアテラレタということなのだろう。そして、彼は記す。「私と同じように、心の窓をパッと開かれるような喜びを一人でも多くの人に味わってほしいという思いで、私はこの選集の編纂作業に取り組んだ。これから現れる新たな読者は、きっといままでになかった新しい洞察を岡の言葉から汲み出していってくれるに違いない」。

難解に感じられるにしても、閉塞感に満ちた今の時代こそ、読むに値する本であるように思う。

2016年5月19日レビュー


岡潔 数学を志す人に (STANDARD BOOKS)

岡潔 数学を志す人に (STANDARD BOOKS)

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2015/12/14
  • メディア: 単行本



数学する身体

数学する身体

  • 作者: 森田 真生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/10/19
  • メディア: 単行本



現代の肖像 森田真生 eAERA

現代の肖像 森田真生 eAERA

  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2014/05/21
  • メディア: Kindle版



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