SSブログ

『知識の社会史 2』(ピーター・バーク著 新曜社刊) [人文・思想]


知識の社会史2: 百科全書からウィキペディアまで

知識の社会史2: 百科全書からウィキペディアまで

  • 作者: ピーター バーク
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2015/07/17
  • メディア: 単行本



広範にわたる「知識」の「近代後期(1750~)」の歴史をとり扱って興味深い

〈「われわれはどのような道をたどって、現在の知識全体を得たのか?」の問いに答えてみようとの好奇心〉が著者執筆の動機だそうです。著者の専門は、「近代前記(1450~1750)のヨーロッパ文化史」ですから、『百科全書』以降の「近代後期(1750~)」を取りあつかった当該著作は専門の範囲外にあるといえます。

しかし、著者は、自分が「専門外」であることを善しとします。「知識」に関する専門書、しかも傑出したものが既に刊行されてあることを認めたうえで、当該書籍は、「比較という手法」を用いて、「全般的な総合」を目指し、「全体的描写を含む描像を提供」するものであると述べます。また、そうすることによって、陥りがちな「国家的バイアス」「専門分野固有の偏向」を避けることもできるというわけです。

「比較という手法」は、当然ながらトピックを広範なものとします。「精神史において重要と思われる思想家たち」「800人ほど」について言及することになります。しかし、特にあつかわれているのは「知識生成機関(knowledge generating institutions)」です。知識が制度化されてゆく過程にも目配りがなされ、「知的な問題より知的な環境の方が重視」されます。知識の「社会史」たる所以です。

著者は、「さまざまな知識が相互作用することこそ、本書の中心的テーマである」とも述べています。著者は、「境界」を越えた知識の交流、交流のダイナミズムをたいへん面白がる方のようです。「序文」のおわりの方で、本書の狙いと執筆理由は、〈「境界」、つまり国家的、社会的、分野的な境界を横断することにあるのだ。E・M・フォスターの助言「ただ結びつけよ」を念頭におきつつ、諸知識の多重奏的歴史を、多元的視点から眺めた歴史を書きたいという希望から、アビイ・ワールブルクが知的な「国境警察」と呼んだものの網をかいくぐろうと思う」と記しています。

以上は、当該書籍の『序文』によるものですが、全体を通読しての率直な印象は、「すごいねえ、年寄りには思えん!!」というものです。当該書籍を著者は、75歳で上梓しています。トピックが広範であると、網羅的になり、浅薄になりがちですが、そうではありません。たいへん刺激に富むものです。おなじく日本の近代のはじまりを江戸時代であるとして、広範に論証している加藤秀俊著『メディアの展開』を読んでの印象と重なるところ大でした。まさに〈「年寄り」恐るべし〉です。

2015年10月5日レビュー

目次
第1部 知識の実践

1章:知識を集める (知識を集めること 第二の発見時代 科学的遠征調査 第三の発見時代? 過去の文化をもとめて 時間の発見 測量標本の蓄積 フィールドワークの多様性 観察のさまざま 話を聞くことと質問すること 質問票 録音 ノートとファイル 保存書庫 結論)

2章:知識を分析する (分類すること 解読すること 再建(復元)すること 評価年代決定 計数と測定 記述すること 比較すること 説明すること 解釈すること 物語ること 理論化すること)

3章:知識を広める (話すこと 展示すること 書くこと 定期刊行物 書物 視覚教材)

4章:知識を使う (検索すること 有用知識という考え 実業と産業のなかの知識 戦争における知識 政治における知識 帝国における知識 大学における知識 他の代替的教育機関 収束現象)

第2部 知識の代価

5章:知識を失う (知識を隠すこと 知識を破壊すること 知識を捨てること 図書館と百科事典 思想を捨てること 占星術 骨相学 超心理学 人種と優生学)

6章:知識を分割する (博識家の没落 科学者の出現 学会、専門誌、集会 学問分野 専門家と専門的技術 領域 学際的研究 共同作業 危険にさらされた種の生存)

第3部 三つの次元における社会史

7章:知識の地理学 (微視的空間 知識を固有化すること 学問の共和国 中心と周縁 辺境からの声 移民者と亡命者 非国有化する知識 知識を世界化すること)

8章:知識の社会学 (知識の経済学 知識の政治学 大国vs小国 圧力を受ける学者 中央集権化の始まり 知識と戦争 研究の後援者としてのアメリカ政府 知識労働者の多様性 労働者階級 知性ある女性たち 組織と革新 思想の学派)

9章:知識の年代学 (知識の爆発的増加 世俗化と反世俗化 短期間の動向 知識の改革、1750-1800 知識革命、1800-1850 学問分野の興隆、1850-1900 知識の危機、1900-1950 技術科する知識、1940-1990 再帰性の時代、1990-)

訳者あとがき p430/注  p460/参考文献  p507/事項索引 p526/人名索引 p534


メディアの展開 - 情報社会学からみた「近代」

メディアの展開 - 情報社会学からみた「近代」

  • 作者: 加藤 秀俊
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 単行本



知識の社会史―知と情報はいかにして商品化したか

知識の社会史―知と情報はいかにして商品化したか

  • 作者: ピーター バーク
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2004/08
  • メディア: 単行本



nice!(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

トラックバック 0