SSブログ

『近松浄瑠璃の作劇法』原 道生著(八木書店古書出版部発行)


近松浄瑠璃の作劇法

近松浄瑠璃の作劇法

  • 作者: 原 道生
  • 出版社/メーカー: 八木書店古書出版部
  • 発売日: 2013/11/25
  • メディア: 単行本


近松初心者でも、興じることができようかと思います。

八木書店のホームページには、当該著書が「角川源義賞・日本演劇学会河竹賞」を受賞したことが記されています。読み始めて後、そのことを知りましたが、実際に賞を得るだけの値打ちのある著作であると思います。アマゾンの当該ページに、受賞の件が表記されていないのは(また、表紙画像が掲載されていないことも)残念に思います。

「近松門左衛門」という近世文学史上のビックネームを、年表上の名前としてだけでなく、生きた作家、しかも現代でも通用する作家として知ることができます。これまで、近松の実作にふれる機会のなかった方でも、近松門左衛門その人を親しく知ることができると思いますし、それだけでなく、著作タイトルのとおり、近松の作劇方法について知ると共に、興じることもできようかと思います。

著者の代表論文「大職冠ノート」の、大職冠とは、藤原家の始祖(中臣)鎌足のことを指し、「讃州志度の浦の海女の献身によって藤原鎌足(或いは不比等)が龍宮から面向不背(完全な球体)の玉を取り戻す玉取りの物語」は、「中世以来、日本演劇の中に深く根を下ろしていたもの」で、「既に人口に膾炙している説話の存在を前提とし、その原話の主要要素には忠実に則りながら、同時に一方でそれを自在に組み換えて行くことを通じて全く新しい世界を創り出して行くという方法は、近松を始め、近世の浄瑠璃作者に共通して見られるところである。そこでの作者は、先行説話の世界を観客と共有しながらも更にそれを完全に対象化した上で別の世界に再編するという働きを果たすのであり・・」と著者は、目次にある『大職冠』論(一)―近松以前―(p142)を叙し始めます。

その論議は、幸若舞や謡曲などに示された「大職冠物」が、近松以前、どのように生成変容していくかをずっと追っていき、p301に始まる『大職冠』論(二)―近松の『大職冠』―の末尾で、「既に旧稿を通じても考察して来たように、近世前期の大職冠物の系譜では、その伝統的な定型が次第に解体の度を強めつつあるという傾向が顕著に窺われるところとなっていた。しかしながら、そのような流れの中にあって、近松は、自身の『大職冠』を構想して行く際に、例えば、唐土よりの玉の渡来、志度沖での万古の玉の紛失、下向した鎌足の思索、海女の犠牲による玉の奪還、その遺児房前の出世等等、その主要な要因に関しては、むしろ一般的趨勢には逆行して、中世以来の定型に合致させて行くという方法を意識的に採用していたと解することが出来るだろう。尤も、そうした先祖返りが、飽く迄も外面的な筋立ての上にのみ止まるといった性質のものに過ぎなかったことはいう迄もない。そこには、しばしば言及して来た“玉のない玉取り劇”という基本的構想の上に最も典型的に示されている通り、大職冠物に於いて古来著名となっていた諸要因が、それぞれに伝承通りの形態を整えているかには見えながらも、その内実は極めて大胆な虚構化を施されて、全く新しい独自のものへと再生させられているのを見出すことが出来るはずである」と結語されるのは、p353となっています。

なんと延々と・・と思われるかもしれませんが、その分析がたいへんオモシロク刺激的で、すくなくとも当方にとっては、冗長な論議などではありませんでした。その他の論議もたいへん興味深いものでした。
2015年5月18日レビュー


近松浄瑠璃の成立

近松浄瑠璃の成立

  • 作者: 正叔, 大橋
  • 出版社/メーカー: 八木書店古書出版部
  • 発売日: 2019/06/10
  • メディア: 単行本



浄瑠璃を読もう

浄瑠璃を読もう

  • 作者: 橋本治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/01/11
  • メディア: Kindle版


<目次>
第一部 総論
近松の人となりと作品
浄瑠璃作者・近松門左衛門
近松の人物造型―劇的状況を担う人物像の諸相―
近松門左衛門の浄瑠璃に見る「生と死」
《コラム》
近松生誕三百五十年にちなんで―生年・父祖・生地など―
作者のいそがしさ―享保初年の近松―

   第二部 時代物(中期)
時代浄瑠璃における悲劇の特質
「やつし」の浄瑠璃化―煙草売り源七の明と暗―
『大職冠』論(一)―近松以前―
『大職冠』論(二)―近松の『大職冠』―
『大職冠』論(三)―追録―
『嫗山姥』小論―時を得られなかった情念のゆくえ―
《コラム》
絵師又平の自負心
巧みな文章表現―『嫗山姥』二段目の語り出し―

   第三部 時代物(後期)
浄瑠璃劇の完成
近松の対「異国」意識
怪奇と謎解き―『井筒業平河内通』の場合―
『双生隅田川』試論―お家騒動劇としての精密化―
「情」をめぐるドラマ―『関八州?馬』の場合―
《コラム》
竹本筑後掾の死
和藤内らをめぐる二重の葛藤―血縁・面目・生さぬ仲の義理―
『日本振袖始』あれこれ―その題材と題名―
「残された俊寛」から「残る俊寛」へ―近松の創った人物像―

   第四部 世話物
通れぬ戸口―近松世話物の場合―
近松世話浄瑠璃の劇空間
死の道行
「死」が許される条件―近松心中浄瑠璃の場合―
『曽根崎心中』の意義―発生期の世話浄瑠璃として―
近松世話浄瑠璃の評価の問題―松田修氏の『曽根崎浸潤』論に触れながら―
セリフの持つ表現力―近松世話物における脇役の事例の検証―
《コラム》
「安住の家」を失なった人々―近松世話物の主人公たち―
九平次の設定―『卯月九日其の暁明星が茶屋との関係―
妙閑の無筆

   第五部 余  滴
近松の魅力―他者への思いやり―
近松の現代性―都会の青年たち―

あとがき/参考文献一覧/索  引

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(2) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2